電車の中で携帯が鳴った。勿論マナーモードにしてある。「いま電車ですから後でかけます」とすぐに切ったというのに、前の席の50がらみの男が「電話を切れっ」「マナーを知らんのかっ」と大きな声で怒鳴りだした。「ああごめんなさい・・すぐ切りましたから」と謝る私も実は平身低頭したわけではない。あまりにも下品な言い草に少々ムカついている私の態度が、さらに偏執的な男に火を注いだらしい。男は自分の正義に陶酔するように、周りの乗客を見渡しながら、ありったけの言葉で私を罵り、罵倒しはじめた。乗客は顔をそむけて、ひたすら静かになるのを待っていた。目を閉じていた私もたまらず、男から遠い席に場所を変えた。
これですべては終わるはずだった。
さっきの電話は時間を急ぐ要件だった。あと10分で返事をしなければならない。やむを得ずメールを打ちかけた。メールは通じた。だが、まだ私を罵倒したりない男が私を追ってきて後ろに立っているのに気付かなかった。あとはご想像ください。和気駅に着くまでそれはそれは大変な15分でした。

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