
古い映画で、ストーリーもいつもの勧善懲悪だろうし、素通りしょうと思ったが、脚本の新藤兼人が目にとまった。もっとも巨匠と言われる映画監督が、娯楽映画にかかわることはめずらしいことではない。
巨匠と言われながら興行よりも良心を優先する映画作りは、資金的援助のない独立プロで細々と作るよりなかったようだし、名作と言われた「裸の島」「人間」「母」なども高く評価されながら、興行収入はよくなかった。それだけに娯楽映画の脚本は、良心的映画を作るための貴重な財源であったはず。
勿論、脚本家としても幾多の名作を残しているが、「座頭市」が望んで書いた脚本とは思えない。しかし、勧善懲悪ながら、悪役の親分にも苦悩するシーンがあり、そのほかの登場人物もそれぞれに個性と陰影をつけて描かれている。ゆきずりの座頭市についてくる馬と田舎道を歩くシーンのやくざ映画ではめったに見られない美しい詩情も見逃せない。
もっとも、新藤兼人脚本ということに、つい肩入れをして観てしまったとも言えなくはないが、シリーズの中では抜きんでておもしろい映画だった。

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