山形イヤ・・天童まで新幹線で約7時間。6時40分の東京行きに乗る。大阪経由の飛行機便は時間は早いが落ち着いた時間は取れない。本を読むための時間を確保するための新幹線である。会議は多分どうでもいい全国の県代表の顔合わせらしいからまあ儀式のようなもので、あらかじめ貰った資料は前日チエックして問題点と質問事項は頭にいれてある。資料は持っていかないことにして、鞄にはぎっしりと本を詰めた。
私は小説家箒木蓬生(ハハキギホウセイ)の大ファンでデビュー作の「白い夏の墓標」から「逃亡」(上下巻)「空夜」「閉鎖病棟」「ヒトラーの防具」など殆ど読んでいるのだが、長編の「臓器農場」は手元に置いたまま読んでいなかった。・・新幹線の座席を少しリクライニングして早速読みはじめる。
箒木蓬生は九州の優秀な精神科医で、その弟が私も親交のある俳人という縁もあって、彼の書いたものを読むようになったのだが、物事に潜む暗黒を照射する洞察力と人間に対する倫理観が誠実で深い文体として現れる。
「臓器農場」も臓器移植の裏面を描き、そこに人間の尊厳を問う小説なのだが、登場人物の一人ひとりが克明に描かれ、その臨場感にフィクションのはずなのにノンフイクションの世界に引き込まれてゆく。
13時30分に天童着。一冊を読み終えた感動と疲れにしばらく立ち上がれなかったが、・・旅の目的はここで終わったような気がした。

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