日本映画を語る上で避けては通れない山中貞雄監督の「人情紙風船」を初めてBS放送で見ることができた。1937年(昭和12年)作。
当時、日本映画といえば時代劇が主流、しかもチャンバラがなければ観客が来なかった時代に、こんな映画を作った山中貞雄は凄い。風船張りで食いつなぐ浪人、葬式でも酒さえ飲めれば大騒ぎする住人たち、ケチな大家など掘割長屋を舞台に、悪党にはなりきれない小悪党の髪結い新三と土地のやくざ一家の小競り合い。仕官を求めてかつての上司に付きまとう浪人とその妻。大店の娘と番頭の恋も歌舞伎的な情緒ではなく、現代ふうなドライに描く。このあたりが山中貞雄の才気かと思うヌーベルパーク的な演出が随所にあって、社会のひずみで喘ぐ現代に通じる人間群像といってもいいのかも知れない。
ラストシーンは酒断のはずの浪人が酒に酔い、うたたねをしている背後へ、妻は立ち上がり懐剣を手にする。寝首をかくのか・・かたずをのんで見守る観客へ、一瞬の暗転があって映画は終わる。

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