私の推した11句
ヒヤシンス錆びた小刀持てあまし れいこ
あの花の形は「小刀」かも知れぬと思わせ、ギリシャ神話の少年の名前でもある「ヒヤシンス」に静かな狂気を潜在させる。
風船に四の字がためかけてみる ちかる
現実にプロレス道場では風船を相手に技の磨いていという声もあり、これには作者も「アラそうですか」としきりに苦笑していた。ナンセンスだが確かにありそうなことだ。
風船に触れそうさそり座の尻尾 ユキオ
作意が目立つが着想のおもしろさ。どうせ作るのなら「触れそう」と曖昧にしないで「触れる」と強く押し出して欲しいと思いながら推した。
赤風船に「オッパッピー」と書いてあり 一声
後で気づいたが「書いてある」は蛇足。「大空の赤風船はオッパッピー」でいいではないか。
風船の穴から海が滴った ちかる
上空にある「風船」から、ぽたり・・またぽたり・・と海が滴る。「穴があいたら萎んでしまう」「海はどさっと落ちてくる」という声もあったが、勿論、現実描写ではなく、シュールな絵画をイメージすればこの句は捉えやすい。
風船がちろりちいさな舌を出す ちかる
「ちろりちいさな」は意味が重なるという声もあったが、「ちろり」は「一瞬見えるちいさな舌」ととりたい。いずれにしろエロチックでかわいい風船である。
節分や兄に小さな力瘤 ユキオ
普段は頼りなげな兄が、家長に代って豆をまく節分の夜。それはその夜だけの頼もしげな兄であったに違いない。その象徴として「小さな力瘤」がある。
教会から花嫁奪う四月かな 義浩
何か映画でみたシーンだが、「四月かな」でやっと一句が立っている。推した理由は「四月バカ」に通じる「四月かな」だけかも知れない。
風船の真っ直ぐ落ちる発電所 悠詩
原子力発電所に、まるで自爆テロのように「真っ直ぐ落ちる」風船の意志。
セックスは嫌いだシャボン玉とばそ ユキオ
昔でいえば不良少女のちょっとした悔いかもしれないが、「セックスは嫌いだ」に屈折した少女の意志がストレートに伝わってくる。言葉に嫌味がないのがいい。
特選 木蓮のせいだ味醂を買い忘れる 瞬夏
桜が散り、新緑が濃くなったころに咲く木蓮は、人それぞれの思いの中に立ち入ることが多いようで名句も多い。この句、名句というほどではないが、うっかりと買い忘れたことを「木蓮」のせいにしてしまう小気味よさと、おなじ調味料でもしっかりと現実の張り付いた「醤油」「味噌」などとは違うセンスをもつ「味醂」によって句が生きた。
破調を問う声もあったが気にすることはない。従順に十七文字に組み敷かれるよりも、十七文字を揺さぶってでも俳句を自分のものにしょうとする意志のほうが、はるかに、新しい何かを生み出すバネになる。

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