『失楽園の武者』読了

2018/1/28 | 投稿者: 鹿苑院

戦国時代前半の中国地方の歴史は面白い。この分野で小説の主人公になるのはやはり第一には一代の英傑・毛利元就である。第二にはその毛利に抗い続けた尼子の忠臣・山中鹿之介だろう。
初期の頃は中国地方は尼子と大内の二大勢力に大きく分かれ、毛利などはその時々の情勢であちらにつくかと思えばまたこちらを繰り返していた小豪族連の一つに過ぎないが、両雄の一方たる大内家が小説の主人公になることはほぼ無い。
主人公になれないのも道理で、大内義隆は厭戦家で遊び暮らしていたら勝手に自滅したようなもので、武勇も智謀も無いのだから大衆受けしないのだ。そのいわば困難な素材をここまで読み応えのある一冊に仕上げた作者の手腕に敬意を表したい。

作品は大内義隆の側近・冷泉隆豊の視点から語られる。武骨者で容貌魁偉なために貴族気取りの義隆には疎まれ、諫言もことごとく無視され続けるのだが、隆豊は腹を立てながらもこのどうしようもない主君への忠義を捨てない。
武断派の首領たる陶隆房の謀反の兆しが見え始めてからも、義隆に隆房誅伐を進言しては却下され続ける。あまりの義隆のだらしなさに、読んでいるこっちが「むしろ隆豊は陶隆房に同心して義隆を討てばいいのでは?」と言ってやりたくなるぐらいだが、彼は決してそうせず、衣川で義経を守りながら闘死する弁慶のような最期を迎えるのだ。
極端に文事に傾いていく大内家の中で、武断派でありながら謀反人陶隆房に加担せず、あくまで武士として自分を冷遇する主君を守って戦い、死んでいった武骨な男の生き様が心に響く秀作。
0



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ




AutoPage最新お知らせ