『月の上の観覧車』
荻原浩
残された人と先にいってしまった人を描いた短編集。
それは道のようなもの。
歩む先には幾つもの分かれ道があって、誰かと一緒に歩いたり、途中で別れたりしながら道を進む。
そしてふと思う。
もし、この道をあの人と一緒に歩いていたなら。
もし、違う道を選んでいたなら。
「もう一度」あるいは「もう二度と」呟きながら、道を振り返ってみたり、この先のどこかで道が合流していることを願ったり、そんなことをしながら進む。
独りぼっちで。
心もとない足どりで。
『夜市』
恒川光太郎
夜市。
それは夜に開かれる。
森の中で、ひっそりと。
限られた人間たちと、人間ではない者たちとの間で。
何か買うこと。
それが夜市を出る唯一の方法。
例外なきルール。
そして今宵も一組の男女が迷い込む。
夜市が開かれる、という蝙蝠の誘いに導かれて。
淡々とした筆致で書かれたホラー小説。
といっても怖いわけではない。
寒気もしない。
非現実と現実の狭間。
その異質感が肌をなぞるだけ。
読み手を裏切る展開や結末があるだけ。
それがホラーやミステリーの醍醐味。
『カツラ美容院別室』
山崎ナオコーラ
皆、友情というものを美化し過ぎているんだ。
だから、男女の友情は成立しないと決めつけたり、恋だの愛だの家族だの手頃な枠にその関係をはめ込まずにはいられないんだろう。
そんな大したもんでも、何かに変わるもんでもないのにね。
尊敬、憧れ、思いやり、下心、嫉妬、嫌悪、愛情、に似たものが合い混ざったもの。
それが友情ってもん。
美容院に集う人たちをサクッと描いた日常小説。
何も始まりはしないし何も終わらないのか、始まりと終わりの繰り返しなのか。
人生の何もかもが。
『告白』
湊かなえ
人間とはあまりにも愚かで、どこまでも自分本意な生き物だ。
各々が違う世界を生き、その小さな世界に浸りきっているくせに、他の誰かに認められたくて、世界を重ね合わせたくて交わりを求め、自分の世界を広げようとする。
同意や共感、称賛だけを期待して、その行為が反発や顰蹙、嫌悪も内包していることも忘れて。
そして暴走を始める。
全て他人のせいだと、自分は正しいのだ、自分を認めないものが悪いのだと、いもしない敵をつくりだし復讐だ、罰だと傷つけ合い、殺し合う。
己の存在意義を、正しさを証明するために徒党を組み、強者に位置しようとする。
言うまでもなく素晴らしい小説。
人を人として描く人間小説。
そこにあるのは混沌と欲と正義とその他何か。
正しさだけ、悪だけ、ただそれだけであるようなものは何もない。
それぞれの告白。
それぞれの世界。
その全てが正しくて、全てが間違いで。
読む者を魅了して離さない。
一気に最後まで読みたくなる。
そんな一冊。
映画版も直後に見ましたがね、やっぱ本のほがいいですね。

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