昔々、あるところに、爺婆が住んでいました。
子どもはいません。
2人で仲睦まじく、というわけでもなく、面倒を見てくれる人もなく、親類縁者なども近くにいるわけでもないので、老後が心配。
ていうか、今が老後?
なら、やっぱ1人より2人がいいよね。
どっちか死ぬまでは2人で暮らせばいいじゃん。
てな風に、質素倹約年金生活。
ただ1日々々を浪費しながら暮らしておりました。
いつものように、爺は山へ芝刈りに、婆は川へ洗濯に出かけました。
かといって、爺はホンマに芝刈りをしていたわけではありません。
爺は大変に荒れておりました。
「芝刈りなんてする必要もないしね。年金暮らしだし、そもそも芝って何のために、誰のために刈るの?そもそも何で爺はいつも山へ芝刈り行くの?そりゃ、世間体的には働き者の方がウケいいけど。でも、やっぱ老後は趣味でしょ?余生なのに働いて暮らすなんてバカじゃないの?へっ、芝刈りふぁっく!」
かといって、家でゴロゴロしていたら婆に愚痴られます。
煙たがられます。
そんなわけで爺は芝刈りと称し、専ら趣味の山菜狩りを楽しんでいたのです。
オマケに他山の筍を無断で拝借し密売。
小遣い稼ぎをし、その銭で如何わしい店に通っておりました。
そんなある日のこと。
いつものように他人の山に入り込み、若筍を盗っていたところ、爺の視界の隅に光るモノが。
「しまった!誰か見回りに来たのか!?」
爺は焦りました。
しかし、よ〜くその方角を見てみると光は点いたり消えたり、同じ場所で規則的に点滅をしています。
「なんだ、人じゃないのか」
爺はひと安心し、光の方へと歩いていきました。
すると、どうでしょう。
そこには節の内側から光を放ち、光輝く竹があるではありませんか。
爺は不思議に思いました。
少し不気味に思いました。
見なかったことにしようと思いました。
爺は小心者だったのです、怖かったのです。
下の方も緩いのでちびりそうでした。
爺は山を下りることにしました。
同じ頃、婆は川にいました。
といっても、ホンマに洗濯しに来たわけではありません。
洗濯は家にある洗濯機でするから。
なら、何故川へ洗濯へ、と言ったのか?
それは爺と同じ理由です。
家にいても爺と一緒にいるだけ。
それが嫌なのです、鬱陶しいのです。
なので、外に出たかったのです。
でもすることといえば、他の婆たちとの井戸端会議。
話題といえばいつも他人の悪口、爺への愚痴、情報源が主にワイドショーか婦人雑誌、週刊誌である自分とは全く関係のない芸能人の話。
でも、爺と一緒にいるよりかはマシでした。
そんなわけで、今日も同じように川の辺で井戸端会議。
「ねぇ奥さん聞きました?デーブ大久保が雄星チャンを殴って解雇になったんですって。」
「きっと自分の子どもも虐待してるわよ。間違いないわ。怖いわ〜。で、そうそう、今週の遼くん見た?」
「見た見た。かわいいわ〜。」
「あんな息子が欲しいわ〜。」
と、どうでもいい話に華を咲かせていたところ、川の上流から、どんぶらこどんぶらこ〜、と巨大な桃が流れてくるではないですか。
「ちょっと奥さん!アレ見てアレ!」
「何?まぁ〜でっかい桃。」
「でもデカ過ぎない?」
「そうよね〜、デカ過ぎるわよね〜。」
「造り物でしょ。本当にあんなでかい桃があったらビックリだわ。」
「それもそうだわね。」
「でさ、ウチのクソ爺、また山に行ってるのよ〜。」
「また?!嫌よね〜爺臭いったらありゃしない。」
「確か趣味が山菜狩りでしょ?でも、奥さん山菜嫌いじゃなかった?」
「そう、嫌いなの。けどね、こんだけ一緒に暮らしてるのにそのこと知らないのよ。ホント信じられないわ〜。まぁ、家にいるよりかはマシなんだけど。」
そんな具合でしこたま愚痴話、他人の悪口を放言。
夕方頃、婆は機嫌よく家へ帰ることにしました。
その夜、珍しく爺と婆は晩メシを食いながら会話をしました。
「そうういえばさ、今日山に行ったんだけどさ。」
「、、、毎日行ってんじゃん。」
「まぁ、そうだけどさ。でさ、竹林で珍しいもん見たんだよ。」
「なんで竹林なんか行くの?アンタ山菜取り行ってたんでしょ?」
「うっ、、、た、たまたまだよ、たまたま。」
「あっ、そう。そういえばさ、アタシも見たで、珍しいの。」
「お、おれの話、、、」
「でっかい桃が流れての、川に。それがさ、もうありえない大きさでさぁ。たぶん作り物だと思うんだけどね。まぁ、仮に本物でもね、拾わないけどさ。だって重いしさ、川なんか流れてるもん拾えないでしょ?怪しいでしょ、腐ってるかもしんないしさ。しかも、アタシ桃嫌いだし。」
「オレは好きなんだけど、桃。」
「あっ、そう。」
「、、、でさ、竹林のことだけど。」
「ん?何?」
「いやさ、光る竹見たんだよ。」
「光る竹?」
「そう、光る竹。その竹のそのひと節だけ点滅してんだよね。」
「で、それでどうしたの?」
「いや、明らかに怪しいだろ?だって光るわけないじゃん、竹が。だからさ、そのままにして帰ってきた。」
「はぁっ?アンタ、何で持って帰ってこなかったの!」
「えっ、だって怪しいし、ありえないし、、、」
「バッカじゃないの?そんな珍しいもん拾ってこないなんて。売ったら金になるかもしんないし、中になんかキラキラしたもんが入ってたかもしんないじゃないの。ホンマ、バッカじゃないの。」
「いや、だってオマエも桃、、、」
「桃は腐ってたの。作り物だったの。そんなもん金にならないでしょ?それに他の奥さんたちもいた手前拾えないでしょ、恥ずかしいから。それにひきかえアンタはどうよ?アンタしかいなかったんでしょ?誰も見てないのに何で持って帰ってこなかったの?バカみたいに山菜なんか拾ってばっかで、ロクなもん持って帰ってこないんだから。」
「うう、、、」
てな具合で、久々の会話もいつのまにやら婆は喧嘩ごし。
そして爺は明日も山に行こうと思い、婆も「コイツとは一緒にいるなんて考えられへん」と、いつものように思いましたとさ。
おわり。

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