芸大在学時代の恩師、鈴木寛一先生のテノールリサイタルに伺いました。感動しました。
古希を迎えられたのに一体どうやったらそんなに若々しい、艶やかな歌声が出せるのか?これが正統な声楽家のなせる業なのか?ただただ感服するばかりの2時間。最後は感激して不覚にも涙していまいステージが歪んで見えました。
声の存在感が圧倒的。緩急自在。まったく無理が無い。ごく自然な呼吸のなかに存在する歌声。高音から低音まで澱みが無い。そして人生の年輪を刻んだ深み。漲る音楽性。自然体がいかに重要であるか。あるがままに存在し続けることがいかに素晴らしいか。先生は巨匠の域に到達されたのにずっと若々しい。勿論、肉体、体力、記憶力は確実に衰えている。なのに変わらない。そして深みが加わる。私は今まで日本人の声楽家でここまで理想的な歌声の年輪を重ねている歌手を他に知りません。自分の型を極め続けるとこういう歌が歌えるのだろうか。究極のマイペース。羨ましすぎます。門下生がこの巨匠の域に達する、そして越えることは出来ないのではないかとさえ思えてしまいました。
他の追随を許さない至芸です。正攻法のオンリーワン。それが結果的にナンバーワンになるのではないだろうか。
芸大何年かに1人の逸材と言われながら卒業後7年間は表舞台に登場せず30歳で藤原歌劇団の「ドン・ジョヴァンニ」公演で華々しくプリモ・テノールデビュー。以降破竹の勢いでオペラ、宗教曲のソリストとして活躍。リサイタルデビューは40歳。ウィーンで研鑽を積まれ、大学での教育活動も始められ、近年、優秀な人材を多く輩出する門下として認められるようになりました。人材は声楽家のみならず石丸幹二、井上芳雄(敬称略)のミュージカル系スターも誕生。プライベートでは高島ファミリーとも親交が深く、お兄さんの方は先生にレッスンを受けられていました。
私自身、何回かミュージカルナンバーをレッスンでみていただことがありましたが全く違和感を感じた事はありませんでした。真の声楽家の理論はクラシック以外でも通用する事をご本人は気が付いていらっしゃるかわかりませんが具現化されています。
他人より良い素材を技術を身につけることで磨き上げれば誰も追い付けません。天才的才能の持ち主がそれに慢る事無く研鑽を重ねると無敵です。安易に持ち声に任せて歌っている歌手は衰えるのが早い。しかし、先生のような歌手はそんな衰えがくることは無いのです。
私はこの先生の門弟で本当に幸せであり誇りに思います。いつか先生を越える日が来るよう、研鑽し続けなければ。目標は高いほうが励みになりますからね。
私も31歳で新国立劇場「魔笛」タミーノ役でプリモ・テノールデビューし、様々な分野で舞台に立ち、かつて先生が10年間勤務されていた大学で教鞭をとっています。師匠の歩んだ道をはからずも辿っているのです。次は40歳で声楽家としての初リサイタルでしょうか(笑)!
