今回のコンサートを通して新しい発見がありました。先ず@喉にフィットしにくい調はやはり#系だった。
こう書くとまるで私の声帯が金管楽器のようですが今までの経験から言って間違いないでしょう。コシ・ファン・トゥッテのフェランドのアリアはイ長調。#が3つです。最高音は2点Aです。これだけ見れば別に大変ではないと思われるでしょうがそれはとんでもない間違いです。大変なのは最高音ではなくそれに至る過程の構成音です。面々と声区の境界線上を行ったり来たりし続けるのです。筋力に任せて歌えば途端に破綻をきたします。要するにどんなテノール歌手にとっても厄介な曲なのです。そして#の調性の持つ色、これがまた曲者です。以前R.シュトラウスを歌っていた時にも調性が#系になった途端、喉の調節に異変が起こりました。音自体の高さが原因なら低い調にさげれば楽になると考えるのが普通です。しかし、高い調に上げて#系から♭系にするとこちらも調節が上手くいきました。これらのことから私の声帯は一定の高さを越えると#系の調を避けたがる傾向がある、という結論に達しました。
A私がオペラを歌う場合、適度に演技をしていないと良い演奏がしにくい。
これまでに多くのオペラに出演してきましたが演奏会でオーケストラ伴奏でオペラアリアを歌ったのは初めてでした。かなり意外なことですが今までそういう機会に恵まれませんでしたので仕方ありません。ですので動きながら歌うことが感覚として当たり前になってしまっているため動けないと歌も流れなくなってしまうのです。ああ、自分はすっかり舞台人になってしまったんだなあとしみじみ感じました。アリアは劇中で歌われる場面が各々決まっています。アリアだけを取り上げて歌ってもそこに至るまでの過程が有るわけです。それを背負って歌えないと只の単品歌曲になってしまうのです。本来、その役を通して歌ってみて初めてそのアリアを歌えるようになるのだと思っていますからオペラを歌うと言うことは大変な作業なんだと思います。あっ、ミュージカルも同様なはず…。あくまでも私個人の意見です。
Bその人のキャリアに年齢は関係ない。
今回、私以外のソリストは皆さん一回り以上若かったので見た目で浮かない為にヒゲを剃り髪も切り込んで臨みました(笑)。共演の臼木さんは一回り若く、現役の大学院生。彼女から見れば私はかなり上の先輩なわけですが、彼女は既に多くの演奏会でオーケストラと共演を重ね、テレビやラジオ出演もしています。そちらの経歴は私より多いのです。そして何より日本音楽コンクールを学部生時代に制覇という偉業を達成しています。コンクールに全く縁の無い私から見るととてもかないません。彼女は二十代前半にしてソリストキャリア12年の私以上の実績があるのです。後輩の人にはついつい年の割に上手いとか立派とか凄いとか思ってしまうのは自分を基準にして同年齢時の自分と比較してしまっているからです。これは相手にとって大変失礼なことです。彼女の実力の絶対値に彼女の年齢は関係ないのです。そう思いながら接したつもりでしたがひょつとしたら無意識に先輩風を吹かせていたかもしれません。臼木さん、もし、そう感じてたらごめんなさい。あなたは現時点で既
に立派な歌手です。あなたと共演できて良かったです。精一杯同世代のフリを舞台でしたつもりです(笑笑)。
