2010/5/27

三昧境3  三昧境

三昧境3

灯とり虫句に捕らえる日記かな
石尊に灯まゐらす火虫かな
道祖の神(さいのかみ)草に沈める夏野かな
夏の原雨催して秀の戦ぎ
夏の原富士を眞向の道となる
野芝居のはや灯りたり灯取虫
灯取虫野芝居大き灯を掲げ
風鈴に所を得たり釘を打つ
湯上りを風鈴の音に澄むに佇つ
風鈴が欲しこの宿の静けさに
風鈴も動かぬ沖の落日哉
風鈴の音を閉したる暑さかな
草を噛む猫恙あり今朝の秋
遠花火ややありて音渡り来る
うそ寒の石かみ当てし朝餉哉
埃る琴払えば秋の声の鳴る
萩寺のある日は句座に明け放ち
行きずりの会釈し去りぬ萩の径

    つづく

2010/5/26

三昧境2  三昧境

三昧境2

蜆研ぐよき音にして厨より
蜆汁の底ひにありぬ身の二、三
蜆汁開かぬ殻のありにけり
ふらここの裳(もすそ)を風にひるがへし
春愁の薬変りし恙かな
春の霜暁の星々澄むばかり
別れ霜馬の看護(みとり)に明け初むる
薯床にはやばや見えて別れ霜
洲(しま)を占め夜干のむしろ別れ霜
片側は新樹となりし場末哉
新緑の緑に廻りしお客かな
ビール果てて餉となる卓の拭かれけり
大ジョッキ麦酒の泡の崩れけり
翠巒(すいらん)のコップに映ゆるビールかな
献酬(けんしゅう)に座の乱れたるビールかな
ビールの座 卓清らかに酌み初むる
大き蚤潰すやピチと快よし

               つづく

2010/5/25

三昧境1  三昧境

三昧境 鯨井大鵬子

ないだろうな、と思いながらグーグル検索を掛けたらやはりなかった。
多くの中堅の俳句作家は生きているうち一つの結社の中である程度名を成しそしてその名前は消えてゆく。
「三昧境」は大鵬子の遺句集で没後30年位してから遺族の方のお力により出版された句集である。大鵬子の昭和25年から28年までの3年間の作品と同時期の川柳が掲載されている。昭和34年没というから私が生まれた年である。
私がこの句集を受け継いだのは祖母からである。
大鵬子は祖母の腹違いの兄に当たる人であった。
そんなわけで私には伯父に当たるわけだが、もちろん鯨井家との交友は私の時代にはない。むしろ祖母がこの本を持っていたのが不思議なくらいである。

作風は平明にして大らかである。まだ私が俳句を始めた頃は何度も読み返した一冊である。もう、残っている関係者も減ってしまいこのままこの本が忘れ去られるのは寂しいのでここに残したいと思う。


三昧境

昭和25年

客人(まろうど)のまこと草摘み日和かな
留守の戸に籠揺れてゐる雲雀かな
雲雀野や放てる犬の戻り来ず
えびがにのここだ穴ある春田かな
塗る畦の陽に輝ける春田かな
雨ながら春田の花菜明るかり
揚雲雀日暈(ひがさ)の中の一つかな
鍬杖に暮色せまれり夕ひばり
そぞろ歩き児を連れければ草も摘み
春光を眩しいと女撮られけり
南の蚕飼に占むる一室かな
鯉幟風驕り来てたかぶれり
ふらここのポーズよろしを仰ぎ撮る
児等去りてふらここ垂るる静けさよ

つづく



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