今日の東京国立博物館は、庭園散策と、平常展から、東洋館特集陳列<「名物裂」にみる文様−宝尽し文−>、本館1階では、13室の陶磁と18室の近代美術、2階は8室の江戸時代の書画、再訪で、特別1室の料紙の特集陳列、2室の<観楓図屏風>などを見て回りました。
東洋館第5室 特集陳列「名物裂」にみる文様 III ―宝尽し文―(10/21〜1/12)
「名物裂」は、広くは鎌倉時代から江戸時代初期にかけて中国などからもたらされた染織品の一群で、中国の元・明・清時代に中国などで製作された金襴(きんらん)・緞子(どんす)・錦(にしき)・間道(かんどう)などが含まれます。大名家や社寺などに所蔵され、茶の湯で使われる道具類のひとつである仕覆(しふく)や袋、書画の表装裂(ひょうそうぎれ)などに用いられています。
名物裂の文様をテーマにした4回シリーズの3回目は、宝尽し文にスポットをあてます。
この文様は他の文様とともに組み合わせて用いられることが多く、単独であらわされることは少ないのですが、今回展示する「金地宝尽し散らし文金襴」(TI-190-7)は、宝尽し文のみを入子菱入襷文(いりこびしいりたすきもん)を織りだした金地(かなじ)に散らしています。
湧き上がる連雲(れんうん)に宝尽し文をあらわした「蘇芳(すおう)地連雲宝尽し文金襴」(TI-190-17)と、連雲を横繋ぎにした「紺地雲に宝尽し文金襴」(TI-315)ですが、製作期の違いで連雲が様式化されてくることがわかります。また、「縹(はなだ)地青海波宝尽し文緞子」(TI- 190-35)と「縹地卍入三重襷(まんじいりみえだすき)に花折枝宝尽し文緞子」(TI-338)の両者は、宝尽し文様と花折枝文様は類似していますが、下地となる地文様が異なると、かなり雰囲気が違ってみえます。こうした製作期の違いや地文の変化にもご注目ください。(展示解説より)
金地宝尽し散らし文金襴(かなじ たからづくし ちらしもん きんらん、明・16〜17世紀)
小さな菱入襷(ひしいりたすき)地にほぼ互の目に丁字(ちょうじ)や犀角(さいかく)、経巻、輪違いなどといった吉祥の意味を持つ八宝、いわゆる宝尽くし文を上紋として織り出す。平織の地に、金糸は全越(まるこし)で入れ、別絡(べつがら)みで押さえる。(展示解説より)
蘇芳地連雲宝尽し文金襴(明・15〜16世紀)
紺地雲に宝尽し文金襴(明・16〜17世紀)
紺地青海波宝尽し文緞子(明・15〜16世紀)
縹地卍入三重襷に花折枝宝尽し文緞子(明・16〜17世紀)
金襴(きんらん)は和紙に薄く伸ばした金箔を貼り、これを細く裁断した箔糸(はくいと)(金糸)を絵緯(えぬき)(文様をあらわす緯糸)として織り込んで文様をあらわしています。箔糸の接着には、赤色系の漆(うるし)や膠(にかわ)、糊が用いられました。一般的に漆によるものは古様といわれています。織物の組織をみると、地となる部分が平地(ひらじ)になるものもあれば、綾地(あやじ)、繻子地(しゅすじ)、紗地(しゃじ)、絽地(ろじ)、羅地(らじ)のものがありますが、いわゆる名物裂で金襴と呼ばれるものは、平地、綾地、繻子地が中心です。なお、地の部分にも金糸を織り込んで地文様をあらわした豪華な金地金襴もあります。箔糸を地緯(じぬき)一本ごとに入れたものを全越(まるこし)、二本ごとに入れた半越(はんこし)があり、金糸の押さえを同じ経糸でした地絡(じがらみ)、別な糸を用いた別絡があります。全越は綾地に多く、半越は経糸が密な繻子地のものが一般的です。(展示解説より)
東洋館第3室では、インド、イラン、イラク地方の染織・刺繍も1/12まで展示されています。
本館18室、近代美術では、
横山大観<瀟湘八景>(八幅、絹本彩色、1912年)〜12/21
2年前(1910年)の中国旅行が下地になっているらしい。
遠浦雲帆

瀟湘夜雨

烟寺晩鐘

山市晴嵐

漁村返照

洞庭秋月

平沙落雁

江天暮雪
瀟湘八景(しょうしょう はっけい)は中国湖南省洞庭湖付近、瀟水と湘江の合流するあたりの8ヶ所の景色で、
遠浦帰帆 (おんぽ きはん) 帆かけ舟が戻ってくる夕暮れの情景
瀟湘夜雨 (しょうしょう やう) 瀟湘の上にもの寂しく降る夜の雨
烟寺晩鐘 (えんじ ばんしょう) 夕霧に煙る遠くの寺より届く鐘の音を聞きながら迎える夜
山市晴嵐 (さんし せいらん) 山霞に煙って見える山里
漁村夕照 (ぎょそん せきしょう) 夕焼けに染まるうら寂しい漁村の風景
洞庭秋月 (どうてい しゅうげつ) 洞庭湖の上に冴え渡る秋の月
平沙落雁 (へいさ らくがん) 雁が舞い降りてくる秋の干潟
江天暮雪 (こうてん ぼせつ) 雪が舞い降る日暮れの河
を描くものとされています。
大観は、遠浦帰帆を遠浦雲帆、漁村夕照を漁村返照とし、二幅ずつを対にして春夏秋冬の景をあてています。
網を干しながらくつろぐ人、あるいは家路をたどる人を描いた<漁村返照>、飛び去っていく雁を、牛に乗った童子が追っていく<平沙落雁>が、ほのぼのとしていて、好き。大観も追っかけてみようかな、という気になってきました。
下村観山<白狐>(二曲一双)も12/21まで。
13室、陶磁・漆工(〜12/21)では、
室町時代(16世紀)の<
砧蒔絵硯箱>が目にとまった。
蓋表から蓋裏にかけて、秋の野に置かれた枕、板葺きの家の中で砧を打つ男女の姿などを描く。画中の「しられ」「ぬる」の文字と合わせて、『千載和歌集』巻五 俊盛法師の歌「衣うつ音をきくにぞ知られぬる 里遠からぬ草枕とは」を表している。
A pillow in an autumn field and letters hidden in the picture represent a poem by Priest Shunsho from the poetry anthology "Senzai Wakashu", which is about the sound of kinuta (a pocess of softening cloth by hitting it with a wooden block called kinuta) the traveling poet heard, which made him realize there was a village not far from where he was sleeping. The pillow signifies sleeping away from home, and the sound of kinuta was often featured in autumn poems.(展示解説より)
仁清、京焼も並んでいる。
いづれも仁清で、手前から、<色絵波に三日月図茶碗>、<銹絵山水図水指>、<色絵紅葉賀図茶碗>
<色絵秋草文扇形皿>という扇の形に作られた京焼の皿もあり、
仁阿弥道八(1783〜1855)<色絵桜楓文鉢>もまた、乾山を彷彿とさせる京焼。
茶碗といえば、2階の4室には、16世紀、朝鮮より伝来の<
大井戸茶碗 銘 有楽>(〜12/21)
長次郎(?〜1589)<
黒楽茶碗 銘 尼寺>(〜3/1)も見逃せません。 茶碗など、以前は、素通りしていたものですが、昨年12月の出光美術館の「乾山」や今回の「大琳派展」から、見るようになってきました。
屏風では、2室に、狩野秀頼<
観楓図屏風>(六曲一隻、紙本着色)(〜11/24)
7室に、狩野興以(?〜1636)<
山水図屏風>(六曲一双、紙本墨画淡彩)(〜12/14)
右隻の左半分から左隻の右半分にかけて、湖か大河と思しき水景を描いて、その上部に大きく余白をとり、切箔を撒いて雲を表現している。
8室、安土桃山・江戸時代の書画(〜12/14)では、
久隅守景<山水図屏風>(六曲一双、絹本墨画淡彩)一扇に一図ずつ山水画を描いた押絵貼。
蜀山人、こと、大田南畝(1749〜1823)<狂歌> 四幅展示のうち、下の画像は、
駒とめて袖うちはらふ世話もなし ぼうず(坊主)合羽の雪のゆふ(夕)ぐれ 蜀山人
雀どのおやどはどこかしらねども ちょっちょっとござれさゝ(酒)の相手に 蜀山人
田能村竹田(1777〜1835)<書状> この書状、縦10センチほどの紙に、細かくきっちり書かれています。
良寛(1758〜1831)<書状>
第10室、浮世絵コーナーのおしまいに何やらおそろしげな一幅
葛飾北斎<七面大明神応現図>茨城・妙光寺蔵(〜12/14)
画面下部には民衆がうずくまり、中央には、巻子を広げ持った高僧、上部には、暗雲の中から顔を突き出し正面を見据える龍。 墨滴が飛び散っている。 書名は「八十八老人卍敬筆」
庭園にて。千両(センリョウ)の実が黄色くなっていました。
参照サイト
東京国立博物館 東京国立博物館ニュース
メモ: 最寄り駅 JR上野駅公園口、JR鶯谷駅、メトロ銀座線上野駅7番出口、9番出口
料金 600円(大琳派展の半券で半額300円)
滞在時間 約1時間30分

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