宮本みち子、小杉礼子 編著『二極化する若者と自立支援』明石書店、2011年
若者問題、雇用問題に書かれた本です。ニートや就職できない新卒者だけのことではなく、就職できても、非正規雇用であったり、その後の昇給やキャリア形成の保障がなかったりといったことが社会問題となっています。若者問題は、就労支援であり、貧困対策であり、教育問題であり、格差解消のため、様々な分野が連携して対策がとられなくてはならない問題です。若者問題の背景と、何が必要かを理解する上で、一読すべき本でしょう。
正直なところ、若干、未消化な部分があるのですが、若者問題について、もっと周知されるべきだと思い、勢いで書き残しておきます。
若者の二極化とは、
これまで雇用セクター(就職による生活保障)と家族セクター(親による養育・扶養の担保)によって吸収されていたリスクが吸収されなくなっているのである。それに加えて、非婚や離婚などの新しいライフスタイルにともなうリスクがそれらと結合しているため、不安定化を増幅しているともいえる。しかも、成人期への移行が長期化し、不安定な時期が長引くようになると、経済的に頼れる親を持った若者とそれがない若者、難局を打破できる情報力をもった若者ともたない若者というように、若者のなかでも二極化している。”条件に恵まれない若者”が安定した生活基盤を築くことは、以前より難しくなっている。(第5章 宮本みち子)
高学歴と低学歴の格差の背景には、その親世代の収入(経済力)や学歴(情報収集力等)が影響しています。また、女性どうしであっても高学歴キャリアと低学歴パート・アルバイトの格差などがあります。
本書は、複数の執筆者による論稿を集めたものです。そのため、各章単位に区切られていますので、全体としては、やや散漫な、というか、まとまりが不十分な感じがします。しかし、それだけ若者問題の背景は多様で、各方面からのアプローチが必要とされていることの表われとも言えます。
日本の産業構造が、第二次産業を中心とする工業化の時代から、第三次産業を主流とする脱工業化の時代に入ったことなどを背景として、非正規雇用が増大してきました。そのため、学校での職業教育も従来の方針では対応しきれず、ましてや、家庭で補うこともできず、十分な準備をできずに就職戦線に立ち向かう場合も多いようです。結果、思うような就職ができず、就職浪人、または、一度就職してもすぐ離職などということになります。卒業後、就職できず、雇用保険に入ったことがないと、「失業」扱いにはなりません。従って、失業給付は受けられないので、就職へ向けての準備に余裕がなく、キャリアがないために非正規雇用を選択するしかない、というような状況に追い込まれます。このような場面では、やはり経済的支援が必要となるはずで、いかにして、そのような支援の必要性を周知していくか、ということも考えられなければならないでしょう。
仕事をしている若者の減少は、税収の減少となり、社会保障の規模を縮小させることにつながります。つまり、失業者が多ければ多いだけ、社会保障費は削られていく。そうならないためには、若者が雇用=安定した収入を得られるよう、社会制度を整備する必要があるといえます。企業においても、非正規雇用の従業員に対して能力開発の機会を提供し、キャリア形成、正規雇用への道筋を示して、若者が安定した就労を目指せるようにすべきなど、様々な提言が示されています。難しいのは、これらの論考をいかにして政策立案、遂行に活かしていくか、具体化していくかというところだと思います。

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