王朝の恋 ―描かれた伊勢物語― 会期 1/9〜2/17
一部の展示作品は、1/9〜1/20、1/22〜2/3、2/5〜2/17、または、1/9〜1/27、1/29〜2/17のように展示替えされています。
古典は、名前のみよく知っていても、本文は最初の1行しか知らなかったりして、この「伊勢物語」にしても、「八橋」「都鳥」というキーワードは出てきても、「じゃあ、何が書いてあるの?」という問いには答えられない。 そこで、臼井吉見・中谷孝雄訳『竹取物語 伊勢物語 堤中納言物語』(ちくま文庫)を借りてきて読んでから行きましたが、物語の内容よりも、125段のキーワードとそれを表すパーツを覚えていくべきでした。
「伊勢物語」の成立については、未だによくわかっていないらしいですが、平安時代中頃に書かれた「源氏物語」に「在五が物語」という名称で、絵に描かれた「伊勢物語」が登場していて、それよりもかなり以前に成立していたらしいです。 とは言っても、在原業平(825〜880)の和歌を多数取り入れ、業平没後の史実も取り入れているため、それ以降であることは間違いないのですが。
今回、展示されている作品のほとんどが江戸時代に描かれたもので、なかでも宗達や抱一といった意匠寄りの作家とその周辺。 ということで、「八橋」なら、「かきつばた」「乾飯(かれいい)」、「宇津の山」なら「蔦」「旅の僧」というような、物語のパーツがどのように取り込まれているか、そのあたりの意匠の面白さに目がいってしまいます。
貴族社会にあっては、「恋愛の手引書」みたいな読まれ方もしたのでしょうが、江戸時代になり、庶民が手に取るようになると読み方も変わってきたことでしょう。 和歌でやりとりするなんて、まどろっこしいことはやってられませんので、「ふった」「ふられた」の昔話ショートストーリーといった感覚じゃないでしょうか。 そうなってくると「八橋」にしても、「かきつばた」よりも「弁当をひろげる男たち」のほうに目が行ったりするもんです。
なんて話はさておいて...
展示室入ってすぐのコーナーには、
岩佐又兵衛<在原業平図>
英一蝶<見立業平涅槃図>(東京国立博物館蔵)
そして
伝・狩野山楽<住吉浜図屏風>(六曲一隻) 周囲には御所車の裂(きれ)。
(所蔵先を明記していないものは、出光美術館蔵)
絵巻のコーナーには、
<伊勢物語絵巻>(一巻、和泉市久保惣記念美術館蔵)から、
富士山 春日の里 関守 くたかけ
和泉市久保惣記念美術館デジタルライブラリーで、画像を見られます。 書籍では、若杉準治『美術館へ行こう 絵巻を読み解く』(新潮社、1998年)に、龍田山(第23段)の図版と解説あり。
絵・住吉如慶、詞書・愛宕通福(あたぎみちとみ)<伊勢物語絵巻 第五巻>(全六巻のうち、東京国立博物館蔵)から
桜花(第90段) 彦星(第95段)
宗達色紙は、展示替えにより、一度に見られるのは11枚。
伝・俵屋宗達<伊勢物語図色紙 大淀>(細見美術館蔵)は、第75段
男が、一緒に住もうと誘うが、女はその言葉にのらない、結局、男は一人、大淀から伊勢へ旅立つのだが、それを描いた画面に
「大淀のはまに生ふてふみるからに...」の歌の文字が左上の女と右下の男との空間に流れるように書き込まれている。
銀泥の満月は、第88段を描いた<伊勢物語図色紙 月をもめでじ>
そして、「東下り(第9段)」関連作品群では、酒井抱一とその孫弟子、鈴木守一。
抱一<八ツ橋図屏風>(絹本金地着色、六曲一双)
抱一<宇津山図>(一幅、山種美術館蔵) 宇津の山にさしかかった、蔦の細道で顔なじみの修行僧に出会い、京に残してきた女への手紙を託すシーン。
蔦の細道といえば、尾形光琳に師事したとされる、深江芦舟の<
蔦の細道図屏風 >(六曲一双、東京国立博物館蔵、リンク先:e国宝)が1/20まで展示されていたらしい。
守一<東下り図>(一幅、細見美術館蔵) 書表装(かきびょうそう)で中廻しには、鮮やかな紅葉と白い萩、かきつばた、上には、山桜が咲き、下には、山桜の根元に、たんぽぽ、つくし。 これとよく似た、鈴木其一<東下り図>は遠山記念館の所蔵だそうだ。
伝・尾形光琳<富士図扇面>(一幅)は、抱一が薄を描いた書表装によって表装されている。
ほかに、
<伊勢物語図屏風(八橋図)>(六曲一双のうち、大和文華館蔵) は、右上方に滝が描かれている。 かきつばたが咲いていたのは、川が幾筋にもなっている沢だというから少し上流には滝があったのかもしれない。
岩佐又兵衛<伊勢物語図 梓弓>(一幅) 第24段。女が、新しい男と契りを交わそうとした夜、音信不通のまま、3年待ち続けた男が帰ってきた。 ためらい気味に少しだけ開けられた戸。 お互いを見つめ、2人の心が凍りついた、その瞬間を、岩佐又兵衛は描いている。 宗達・光琳派の展示が続いたところに、突然、心のなかが見えるような作品が現われると、ドキリとさせられます。 所蔵先が書かれていなかったのは、個人蔵か?
山口蓬春<
扇面流し >(二曲一隻、山口蓬春記念館蔵、リンク先:山口蓬春記念館) は、第6段・芥川と関連づけて。
伝・俵屋宗達<伊勢物語図色紙 武蔵野>(一幅) 中廻しに蝶の刺繍裂。
伝・俵屋宗達<月に秋草図屏風>(六曲一双のうち) 白い萩の花、ききょう、なでしこ、薄などが描かれている。 銀泥の月が腐食しているようですが、修復は?
<奈良絵本 伊勢物語>(2帖)からは、くたかけ(第22段)、鳥の子(第50段)の頁。 見開き右頁に詞書、左頁に彩色された絵。
「奈良絵本」「嵯峨本」については、國學院大学のサイト内に
「絵で見る日本の物語」『伊勢物語』紹介 というページがありました。
最後のコーナーには、伝・宗達<伊勢物語図屏風> 出光美術館蔵の六曲一隻のものと、泉屋博古館蔵の六曲一双のものが並ぶ。 求めに応じて幾つも制作したんだろうな。
冷泉為恭(れいぜいためちか、1823〜64)<伊勢物語八橋図>(一幅、大和文華館蔵) 「蔵人所衆関白...」という署名の文字が美しい。 霞の藍と松の緑が鮮やか。 食事をとる一行を描いており、かきつばたは、申し訳程度にしか描かれていませんが、中廻しに、かきつばたの群生を描いた裂を使って表装されています。 冷泉為恭、名前は覚えていても、なかなか作品にめぐり合えません。
参照サイト
出光美術館
次回は、「西行の仮名」 2/23〜3/30
メモ: 最寄り駅 JR有楽町駅国際フォーラム口、東京メトロ日比谷駅・有楽町駅・二重橋駅(B3番出口)
料金 1,000円、ぐるっとパス(入場券)
滞在時間 14:40〜15:20

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