哀弟死去作歌一首(并短歌)
父母賀 成乃任尓 箸向 弟乃命者 朝露乃 銷易杵壽 神之共 荒競不勝而 葦原乃 水穂之國尓 家無哉 又還不来 遠津國 黄泉乃界丹 蔓都多乃 各々向々 天雲乃 別石徃者 闇夜成 思迷匍匐 所射十六乃 意矣痛 葦垣之 思乱而 春鳥能 啼耳鳴乍 味澤相 宵晝不知 蜻蜒火之 心所燎管 悲悽別焉
父母が 成しのまにまに 箸向ふ 弟(おと)の命(みこと)は 朝露の 消やすき命 神の共(むた) 争ひかねて 葦原の 瑞穂の国に 家なみか また帰り来ぬ 遠つ国 黄泉の境に 延(は)ふ蔦の おのが向き向き 天雲の 別れし行けば 闇夜なす 思ひ惑はひ 射(い)ゆ鹿(しし)の 心を痛み 葦垣(あしかき)の 思ひ乱れて 春鳥の 哭(ね)のみ泣きつつ あぢさはふ 夜昼知らず かぎろひの 心燃えつつ 嘆く別れを