こうして、無事「ろくでなし」のライブが終わったボクたちはタクシーで吉田寮に帰る。当初、旅館はいやだ、汚いとこでは眠れないからひとりでホテルを借りると言っていたガンジーさんも付いて来る。結局一緒に雑魚寝部屋(ゲストルーム)に泊まって、翌日ひとりで神戸へむかったガンジーさんは、吉田寮のたたずまいが気に入ったようでしきりにいいなここ、と言っていた。
9月24日(金)
明けて翌日はオフの日である。結局、ボクとTOMOと岡ちゃん、ガンジーさんの凶徒ツアーメンバーが全員、格安ということもあって吉田寮にお世話になった。昼頃、ガンジーさんはひとりで神戸へ向かい、岡ちゃんは祇園の方に散歩しに行き、ボクとTOMOは昨日に引き続き「進々堂」に朝食兼昼食を取りに行く事に……。
実は、昨日どうも古書店に大事にしている扇子を置き忘れたような気がしていたから、そのことも確認したかったということもあった。しかし、寄った古書店にはなかったと言われた。どうも、会得がいかない。
しかし、それはボクの思い違いだったのだ。ためしに「進々堂」のウェイター(男もおくようになったのだ。そう男女共同参画でなきゃね!)に聞いてみたら、これですかともってきてくれたから……。おそらく、椅子の上かなんかに置き忘れたのかもしれない。
と、雲行きが怪しかった空がかき曇って土砂降りになる。道に止まっている乗用車のフロントガラスが水しぶきをあげているのがよく見える。ボクらも、店内にいるお客さんも出るに出れなくなってしまった。中庭に面したテラス(もちろん屋根はある)には、女学生然とした何人かが本をひろげてゆっくりと勉学している。この学生街のたたづまいが「進々堂」に、とても良く似合う。
ボクが注文したのは、「進々堂」特製カレー(コ−ヒ−付き)で日本風のカレーライスだが、おいしかった。ベジのTOMOは昨日と同じもの。ボクなぞは探求のためチーズケーキまで注文してしまう(ボクは「チーズケーキ評論」もやっているため(笑))。
ゆっくりと昼食(兼朝食)をとっていたら雨もあがったので、ボクらは濡れた今出川通りを歩いて吉田寮に帰る。
夕刻、ボクとTOMOは「アンデパンダン(インディペンデンス)」に行こうと相談する。ゴロゴロしていた岡ちゃんに伝えると、もしかしたら行くかも知れないけど自分はここでまったりしてますとのこと。旅先でこそ、それぞれのスタイルが見えてくるもので、そんなことには云々しないほうがいい。ボクもこのあとTOMOと別れてひとりで歩き回るのだ。
「カフェ・アンデパンダン」のある場所は、もと毎日新聞社の京都支社のあったビル。1928年に建てられた文化財的価値のある建築物であり、横浜のもと銀行あと(BANK ARTの会場になっているところ)に比べれば、重厚さが違うが、そのビルをそのまま保存使用している点がユニークだ。ぼくらが行ったこの日は、1階(ART COMPLEX 1928)では映画の上映(たしか「ガチャポン」)をやっていたし、「カフェ・アンデパンダン」自体、内装はそのままにして壁など剥落しかかって廃墟っぽいのだが、それがなんというか琴心に触れて、オシャレだ。なんだかポンペイの廃墟みたいな居心地の良さで、ボクはすっかり気に入りました。
ここで、晩飯とビールを飲んで、河原町まで歩いたところでTOMOと別れる。ボクは人通りもまばらになった京極通り(ここは修学旅行のおみやげもの探しの場所じゃなかったかな?)を歩き、ふたたび河原町通りと高瀬川の間にあるジャズバー「厭離穢土(おんりえど)」へ。客はボクひとりだった。色々リクエストを聞いていたら、「そんなにジャズがお好きでしたら……」と紹介された「厭離穢土」の二代目マスターが開いたという木屋町通りの雑居ビルの中にある「BUTTERCUP」へ。なんと、ここには両肩を出した女の子もいる。聞いた話だと、「厭離穢土」時代の常連の女性だったとか。マスター60代、女性20代後半とみた。客はここもボクひとり。でも、気持ち良く酒が進み、勉強してくれたのか、そんなに高くなかった。
夜風に吹かれながら、川端通りを歩いて行き、横道に入ったら道路で寝転んで携帯をかけている青年がいた。酔っているのかと思って(ボクは酔っていたが)「大丈夫?」と聞くと、「お!中平卓馬に似てますね!」と聞いてくる。「なに?中平卓馬が好きなの?」と、聞き返すと「ボク写真やってます。ボクの作品見て下さい」という。そして、「待っていて下さい」と言った青年が入って行ったその家は、日本瓦の立派な邸宅。「おいおい、こんな邸宅に住んでる奴かよ?」と、いささか戸惑ったが青年は四つ切りの印画紙の箱を小脇にかかえて出てくる。「どこで見ましょうか?」と聞くから、「吉田寮にいるから来る?」と聞くと、「行きます」と言う。
青年のおごりでタクシーで、吉田寮に乗り付ける。雑魚寝部屋ではTOMOも、岡ちゃんもまだ起きていて、そこで青年が自分で焼いたと言うモノクロの写真を見せてもらう。酒を飲みながら雑談していたら、写真に関心を示すのがボク以外にあまりいなかったせいか、青年はふいにプイと帰ってしまう。
(凶徒関西ツアー 京都編・終わり)







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