5月10日に今年の「手塚治虫賞」(第10回手塚治虫文化賞)が発表され、吾妻ひでお作『失踪日記』が受賞した。
吾妻ひでお! もう、吾妻ひでおといったら吾妻ひでいよう! といいたいくらいのナンセンスな、なんだかよく分からないゆえの「ナンセンス・ギャグマンガ」を描いていた作家だったと思う。
ただ、吾妻はロリータ風の可愛い女の子を描くので、それなりの人気があったが、作風にムラのあるはっきり言って好きなマンガ家ではなかった。
遠く「奇想天外」とかいうSF誌があってそれで見て以来(「不条理日記」)、ひさしくお目にかかっていなかった。それが、昨年文化庁メディア芸術祭大賞、日本漫画家協会賞大賞とかとって書店に平積みされていた時にも、「お!へぇ!」と思ったくらいで、手にとるつもりもなかった。ただ、そのタイトルにはすこしばかり気がひかれていたけれども……。
その同じ作品が、これは大賞時期としてはちと違反ではないのかと疑念をもちつつも(作品は、ほとんどが92年、02年に描かれたものだが、イーストプレスの単行本は05年3月だからセーフなのか?)三度めの正直で買ってみた。そう、吾妻ひでお作『失踪日記』である。
正直「手塚治虫賞」大賞受賞作品である。久しく読まなくなった最近のマンガのレベルや、動向が分かるかと思って購入したのである。その点は、見事に裏切られた。キャラクターは凡庸、コマ割は平凡、ベタな絵で、どこが評価されたのだろうと思った。
しかし、身につまされた。ホームレス体験のところはボク自身のフーテン時代とも多く重なるが、アル中病棟体験はともかく、第2部の「街を歩く」で、主人公が「お前仕事なかったらうちで働くか?」のひと言でスカウトされてはじめる配管工体験のくだりは、もう3K仕事にいそしむ今のボク自身ではないか!
炎天下の力仕事で、立ったまま貧血をおこす。セメント袋は、かつげずにブチまける。結局、撤去の仕事にまわされるといった展開もなんだか自分に似ていて苦笑してしまう。
「エルボ、チーズ、ニップル、フレキ、ねじ切り……云々」
そこに出て来る用語も、右も左も分からないボクが覚えさせられたものと同じだ(とはいえ、ボクは配管工ではない)。
これはいわば、私小説風マンガ、告白マンガだ。永島慎二やつげ義春につぐ自己を切開する作品だ(このふたりの名前は作中にも出てくる)。と、いいたいのだが、そこは面白おかしく描くことを宿命づけられているギャグマンガ家、深刻には決してしない。むしろ、自分自身の滑稽ぶりを笑いのめしているところがある。
それにしても、手塚治虫賞についていえば、いや先の漫画家協会賞でもそうだが、ある意味、担当編集者に思いのままにあやつられているマンガ家の実体を描きながら、賞を与えるというのは自虐的になっているのは、選考委員の方なのではないかと考えさせてしまう(笑)。
大賞にあたいするかどうかは、関与しないことにして身につまされて読みました。
しかし、出版界と言うところは監獄体験とか、シャブ体験とか本当に好きだなぁ?
編集者は、実はしがないサラリーマンで、非日常体験に常にあこがれ飢えているのは編集者自身だからだろうか?

0