昨年の合宿は悲惨でした。脇町戦であごを骨折して、ほぼ固形物が食べられなくなり、最終日のバーベキューは匂いをおかずに、ゼリーを食べていたのでした。我慢強いマツシマはそれでも泣き言言わずに(痛すぎて言えなかったとも…)夏を過ごしました。脳に近い部位ほど痛みはダイレクトですから、彼の我慢は推して測るべしなのです。そんな昨年の夏を過ごしていますから、今年の合宿最終日はご機嫌でしたね。あの一時の解放感のために、厳しい練習に耐えてもいるのですから、やはり元気に食べたいものですね。私は上あごの一部と前歯4本を失った際に、やはり食べること、とりわけおいしく食べることが生きる上でいかに重要かを体験しました。ですからあの日のマツシマの、食べられないことの苦痛は理解しているつもりです。あごが治って、ホッとしました。
さてそのマツシマは、不思議なナンバー8でした。不思議なナンバー8というのは、過去にも数人います。何を不思議と称するかといえば、抜いていく姿がお世辞にもスマートではないのです。力強い突進だったり、抜き去るスピードだったりという評価がナンバー8の一般的なものなのですが、そうした突出したものがあるわけではないのです。ですが、あれよあれよと、するすると抜いていくわけです。選んでいるコースがよいこと、相手にタックルされにくい体勢で走って行くために、ナンバー8の重要な役割である突破力を発揮してくれました。上手に相手を外していくというのは、理屈以上にその選手の個性とセンスです。それを遺憾なく発揮してくれていました。
マツシマに限らないのですか、今年の3年生たちは全体として実に謙虚でした。時折、それが自信なさげに見えることもあったのですが、この謙虚さはこれから社会に出た際には十分に武器になるはずです。どんな能力が高くても、謙虚さに欠ける人は、どこかで評価から外されるものです。謙虚に、そして人に誠実でいる人は、それだけで社会で通用します。それがまさにマツシマでした。練習試合に出かけた際などには試合相手の先生に部長と副部長が挨拶に行くのですが、リンとマツシマのコンビはその点でしっかりしていました。グランドで先生方への挨拶も実に折り目正しいのです。言葉だけ「こんにちは」と言う選手が多い中、マツシマとリトルベアーは相手に向き合い、頭をしっかり下げて挨拶ができます。それがどれほどうちの部にさわやかな印象を与えてくれたことでしょう。
こうした何気ない姿勢を、多くの先生方が見ています。新チームも、みんなに応援してもらえるチームを目指すようです。であるならば、マツシマ先輩がどのような姿勢でクラブと向き合い、先生方へ挨拶をしていたかを思い出して、見習いましょう。皆が実践できれば、みんなの掲げた目標達成は難しいことではないかもしれません。

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