多くの人の脳裏に焼き付いているのは、肩がダラリと垂れ下がりながら、それは痛みに耐えながらもグランドに戻るための姿であったはずです。ハプニングが訪れたのは、今年の春でした。それまでケガには無縁の男でした。その理由は、基本的には体幹の強さです。小さいながら、軸がしっかりしていたこともあり、早くからフッカーとして定着しました。3年生の中でもっとも体幹のしっかりしていた選手です。体幹のしっかりした選手は、ケガのリスクを軽減できます。それを証明する一人であったのです。
ですがハプニングはつきもので、残念ながら肩に爆弾を抱えることとなりました。現役を続けながらの完治は難しく、手術の必要性も指摘されました。ただカイリに残された時間を考えると、どうしてもテーピングでケアして続けるしかありませんでした。手術をすれば、その後のリハビリを考えても実質の引退を意味するからです。
派手なプレイができる選手ではありません。ですが、誰もが花火のような派手なことを考えたのでは、チームはまとまりません。その意味でこのチームにはカイリが必要だったわけです。ひたむきに、黙々と自分の責任を全うする姿は、後輩たちに示唆的でした。こうしたプレイが賞賛に値することを学んだはずです。
それでも試練はありました。2年の夏に、私からスローワーとしての欠点を厳しく指摘され続けました。そうするとますます萎縮することも承知しながら、それでもその段階で一皮むけてもらわねばなりませんでしたから、心を鬼にして高い要求をしたのです。それを見かねたミヤモト先生がカイリにヒントを与え、持ち前の粘り強さで実に安定したスローワーへと成長していきました。
だからこそ肩の故障は彼にとっても、チームにとっても厳しい現実を見せつけました。替わったモロガがスローワーになることで、リフターも変更せねばならず、チーム戦略に影響するからです。その責任を誰よりも痛感したのは、カイリのはずです。だからこそ誰一人、カイリを責めるものはおらず、とにかく調整に励みました。カイリの安定感に比べると、どうしてもブレがあるのは仕方のないことです。それすらも織り込んで、戦うことを余儀なくされました。
それでも日に日にカイリの肩は緩くなります。それは外れる機会が増えることでもありました。それをなんとか抑制しようと、テーピングを強めれば強めるほど、外れたときの入りにくさに直結します。それはAグランドでの準々決勝にもっとも顕著に現れました。前半だけで3度、外しました。と、ここまで簡単に書きましたが、肩の関節が外れる痛みは一般の方の想像を絶します。その後、プレイを続けようなどとはとても思えないものです。彼の状況を見ていただいた方はお分かりの通り、彼は声一つ上げることなく耐えました。その忍耐たるや、頭が下がる思いです。
口数の多い選手ではありません。自己主張をするタイプでもありません。それでも芯の強さは人一倍です。誰の思惑にも左右されることなく、自身の中の信念を通すタイプです。もう少し自己表現は上手にならないと、カイリの良さが活きないという注文はつけねばなりませんが、それでもカイリの存在はうちの力でした。だってあれだけ小さな体でフッカーをし、接点で負けなかったのですから、体格に恵まれながら気持ちで負けている後輩たちにはもつともっとしっかりしてもらわねばなりませんからね。カイリの逃げない気持ちを、後輩たちは引き継がねばなりません。

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