道具を大切にする
何かと話題にのぼるイチロー選手の話です。スポーツ選手は、一流になると自分の身につけるものの大半はスポンサーからの提供ですから、潤沢に道具ありそうですよね。望めばそうなのかしれません。今は大学などでもスポンサー契約を結んで、支給されていることも少なくないようです。それはそれで贅沢なのですが、強いチームや、有名な選手に提供することでコマーシャル効果もあるわけで、双方にとってメリットは大きいのです。それは野球などでは分かりませんが、サッカーやゴルフなどではスポーツメーカーのロゴ入りのユニフォームや、服装でプレイしていますから、それにあこがれて購入するファンも少なくないわけです。
そんな中で、道具を消耗品としてしか考えないような選手もいるようです。同じものが提供されるわけですから、一つのものに固執する必要がないわけです。道具の素材も、構造もよいわけですから、そのまますぐに使いこなせるものとなります。選手をサポートする意味ではよいのですよね。ただ消耗品と考えてしまうと、いくらでも補充のきくものとして、大切にしないのかもしれません。
その意味でイチロー選手は象徴的です。とにかく道具を大切にするというのです。道具を大切にするというのはどういうことか、野球をしたことのある人には想像がつくでしょう。野球経験者は自分のグローブを手入れする当たり前を知っています。これは野球にかぎったことではないはずです。吹奏楽部員は自分の楽器の手入れを欠かさなかったはずです。サッカーやラグビーの選手たちはスパイクを磨いたでしょうし、テニスはラケットのガットの状態が気になったことでしょう。スパイクを磨き、バットの手入れをするという当たり前のことを一流選手も怠らずにやっているのです。彼の記録を支えているものが、そうした当たり前のことを継続することにあるのだと知らされるわけです。
私が学生だった頃、ラグビーボールは今のようにラバー素材ではなく、天然素材であったため、一年生の仕事としてボール磨きがありました。このボール磨きは自分の唾液で行うのです。唾液をボールにつけ、磨くのですからなんとなく不衛生にも思えるのですが、当時はこれが一年生の義務だったわけです。さらに自分のスパイクを磨いてもいました。高校二年生の時に買ってもらったカンガルー皮のスパイクを週に一度、磨いていたのです。自分の通学に履いていく革靴は磨かないのに、と母親にぼやかれていたくらいです。そしてそのスパイクは手入れをしていたかいもあって、今でもこのスパイクは現役です。といっても最近はこのスパイクが登場する機会はほとんどないのですが、それでもピカピカです。これまでも何度かオーバーホールをしてもらいました。このスパイクを制作した会社の職人さんが無料でやってくれたのです。それは道具を大切にした私への敬意だといわれ、私自身もとてもうれしくなりました。
自分の関わるものを大切にする感覚を忘れてはいけないと思うのです。自分の身の回りのものに対する敬意を持つべきです。それがあなたへの敬意として返ってくるはずです。おそらくイチロー選手が自分の道具を大切にするのも、それが自身に返ってくることをよく分かっているからだと思うのです。先々のことを考えるあまりに、自分の足下がおろそかになってしまったら、そのしっぺ返しも自分に戻ってくるものです。今のあなたがまだ学校という場所によって、身分が保障されているのだとしたら、もっともっと学校という場所を大切にしてもいいはずです。それがあなたによい結果をもたらすはずです。その意味で今のあなたの持ち物を大切にしましょう。私のスパイクが今も健在なように、何年か後にあなたの受験期を支えた何かが、あなたの力となることを願っています。

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