微笑をもって
ある音響関係の企業の会長のコラムです。今のあなたにとっては、心強いものとなるのか、耳痛い話になるのか、読んでみてください。
母校であるT学園の創立者、小原国芳先生の言葉に「人生のもっとも苦しい、いやな、辛い、そんな場面を真っ先に微笑をもって担当する」というのがある。昔は「冗談じゃない。要領よく生きる方がいいに決まっている」と本気で思っていた。
ある日、一人の男子大学生が最前列で真剣に講義を受けていた。スキーサークルの仲間で大親友のHだ。授業が特に苦しく嫌だとは思わなかったが、彼の実直な姿勢が気になり、私もまねてみた。経営工学にはもともと興味があったが、授業を最前列で集中して受けてみると、見るもの聞くものが新鮮で楽しくなった。私の価値観は百八十度変わった。
試験前にちょっと勉強したり、国語の試験のため本を読んだり、そういった小手先だけで何かをすることが大事なのではなく、何事にも真っ正面から向き合う愚直さが大事だと思うようになったのだ。小手先では充実感も達成感もない。
最前列で講義を受けていたHは今、会社員をしながら、四年間かけて難しい国家試験に挑戦し続けている。そんな彼の姿を見ていると、小原先生の言葉を思い出す。彼のように、そして先生のように、地道にまじめに真剣に、そして微笑をもって生きていきたい。
私の大学時代はどうだっただろうかと顧みてみました。このH氏や著者ほどには熱心ではありませんでしたが、それでも文学史U、児童文学概論、天文学、法学の授業は最前列で聴いていました。もちろん最初からではありません。最初の講義でこれは楽しそうだぞと感じたものを、二回目から最前列に陣取ることにしたのです。天文学や法学は、専門科目ではなかったのですが、それぞれに楽しかったです。膨張宇宙論や判例から判決を導き出していく道筋など、それまでには知らなかった世界です。これらの授業はどれも大教室ではなく、小さな教室で行われていたために、集中して聴くこともできた気がします。文学史Uに関しては、ここで学んだことがきっかけでゼミもその先生の講座に決めたほどです。それは自分が大学入学前に専門にしようと思っていた分野でも領域でもありません。少し前のめりで講義を聴いたことによって、新たに自分の中に拓かれた世界だとも言えます。
今、受験勉強に苦しんでいる人も多いことでしょう。一刻も早く勉強から解放されたいと考えている人もいるかもしれませんが、あなたが大学という選択肢を取ったのであれば、勉強はこれからも続きます。続くのであれば、勉強をすることの楽しさを身につけてしまった方が得かもしれません。来週からの定期試験を小手先だけで切り抜けて、受験勉強は真剣に取り組もうというのは、実は逆効果なのではないかと考えます。その理由の一つが紹介したコラムの中にありました。本当にあなたが、掲げている志望校にたどり着いて、受験の達成感を得て進学したいと望むのであれば、あなたに与えられたすべてを一所懸命に取り組む必要がありそうです。
もちろん私だって、偉そうに言えるほどには愚直ではなく、時に楽をしたいとか、サボってしまおうとか、「このくらいでいいか」と妥協してしまうこともあります。それでもここ一番の勝負所に向けては、あらゆることを単純にそこへ向かうエネルギーにしようと集中します。今のあなたはまさにその勝負所に来ているはずです。今のあなたが、愚直に目の前のことを、微笑をもって取り組むことを期待します。大切なのは微笑ですね。今の自分の状況そのものを楽しむための発想を持ちましょう。自ずと笑みがこぼれます。

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