いやーな兆候が出ている。
このままいくと2016年3月卒業予定者、つまり、今の大学3年生や大学院修士1年生の就職活動は、終盤に「内定取り消し」が横行するかもしれない。
僕が学生の就職支援業務に就いて、かれこれ30年近い。
最初に内定取り消しが問題になったのは90年代初頭のバブル崩壊時だった。
そして、その次がリーマンショックの2008年。
僕は、2007年の秋にそのとき勤めていた大学の理事長に「このままでは来年、内定取り消しが出る」とレポートした。
当時、大学生の就職環境はバブル期ほどではないものの「売り手市場」。
「このおっさん、何を言ってるんだ?」なんて怪訝な顔をされたもんだった。
だけど、確信めいたものはあった。
まず、2007年当時の売り手市場は、団塊世代の大量定年による「雇用の2007年問題」に起因するものだったこと。景気動向は、「実感なき好景気」といわれる環境だった。あくまで求人需要は団塊世代の欠員によるもので、事業拡大に伴う人材需要ではなかったということだ。
さらに、2007年春の時点で、多くの企業、特に建設業の業績は頭打ち感があった。
僕は、2008年の9月に上京した。僕の仮説の裏を取るために。
まずは、兜町。最大手のN證券の人事担当に「サブプライムローン問題はまだ根深いですよね。来年に向けてもっと大きなことがあるじゃないですか?」とつついてみた。
案の定、「実は・・・」とN総研のレポートを見せてもらった。
レポートは翌年に起こるリーマンショックを予見するものだった。
後にN證券はリーマンブラザーズのアジア部門を買収するが、この時点で準備は着々と進めていたわけだ。
僕はその足で、八重洲の某ディベロッパーを訪問した。人事担当は元営業担当。彼に疑問をぶつけてみると・・
「そういえば、我々が“カタカナ企業”と呼んでいる外資系企業が、最近急に入札の現場に姿を見せてないようです。少し前まで考えられないような金額で入札を繰り返していたのに」
「じゃあ、アメリカでは既に資金繰りが悪化するような状況になってるかもしれませんね」
「ありえますね」
僕は帰阪して学生の前で講演し警告した。
「来年、急速に景気は冷え込み、最悪の場合、内定取り消しが出る」
さらにある企業の財務諸表を例示し、「危ないのはこういう企業だ」と解説した。
その企業は翌年内定取り消しを出し、やがて倒産した。
バブル崩壊時とリーマンショック時は非常に似ている。円高=強い円による潤沢な資金で買い漁った固定資産が、資産デフレによって資金繰りを悪化させたのだ。
だが、現在の様子は正反対。
日銀の大盤振る舞いで円安が急速に進んだ。円安とは円の弱体化だ。
さらに政府は声高に「デフレ脱却」とインフレ移行を進める。インフレとは通貨の価値を下げることだ。
そもそも、資源に乏しいわが国は輸入に依存しなけりゃならない。
素材などの川上産業は円安によるコスト増を値段に反映できても、小売はできない。100均が150均にはならない。
建築着工も新車販売台数を好調とはいえない。
一方で、学生の就職環境はどうかというと、現在の4年生、2015年3月卒業者に対する採用意欲は旺盛で、卒業が間近に迫る今の段階でも採用活動を継続している企業は多い。
経団連は現在の3年生から採用活動の後ろ倒しを表明していたが、9月になって、「大学が主催の企業説明会はキャリア教育なので時期の如何に関わらず人事担当の参加は可能」と大幅な条件緩和を行った。
消費増税、年末だと囁かれる解散総選挙。
さまざまな要因があり、予断は許せないが、来年、小売業を中心に内定取り消しが横行するかもしれない。

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