結局、四重奏よりも交響曲に人気があるのは、「色んな音」がするからだ。
猫が、新しい音が聞こえるたびに耳をピクッとさせて反応するが、それは身を守るための動物的な本能だ。音楽を聴く上で、この動物的な本能が人間にも起きているともいえるのかもしれない。新しく聞こえてきた音には無意識に注意がいくのだ。
例えば、ラヴェルの「ボレロ」が一番分かりやすいと思うが、同じメロディが延々と繰り返されているだけでも、楽器(音色)が違うだけで、飽きない。
あれがバイオリン一台だったら、リフレイン3〜4回目で飽き始める人が出てきて、7〜8回目もやったら帰ってから何を食べるかとか考え出したり、周りのお客さんの反応を見だしたりする人が出てくるはずだ。10回以上繰り返し続けたらそのうち怒り出す人もいるかもしれないし、ライブハウスだったら確実に携帯電話を開けるやつが出てくる。
60年代、ファズやワウ、テープエコーといったエフェクターの出現によって、ギターは様々な音色が出せるようになった。エレクトリックギターが60年代以降、主要な楽器になったのは、音色のバリエーションが豊富な楽器だったという事も一因になっていると思う。
いろんな音が出る楽器、エレキギター、シンセサイザー、サンプリングマシーン、これが現代の音楽を考える上で重要な楽器なのは間違いない。
で、シンセサイザーだが、ギターより少し遅れて60年代後半あたりからムーグシンセサイザーが登場する。当時、一般でムーグ以外に電子音が使いたいなら、楽器を自分で作るしかない状況だった。そして、このシンセ黎明期における電子音探求の混沌感が面白いのだ。やたらに変な音が好きなら、この60〜70年くらいまでの時期は外せない。
ブルース・ハークは、シルバーアップルズや、ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカや、ホワイトノイズといったアメリカ(一部英国)の自作電子音バンドと同じ地平で語っていいのかなと思う。
ひとつだけ他と違っているのは、ブルース・ハークの音楽は子供のために作られた音楽だということだ。
ブルース・ハークの初期の音源は、あくまで子供の教育のためのレコードを出版するという目的のDIMENSON5というレーベルからリリースされている。
子供が聴いても理解できるようにするには、表現は単純明快でなければならない。そこで、最初にお話があり、それを歌で歌い、極端な効果音をちりばめる。
一見支離滅裂な音のつながりや言葉遊びのような歌詞は、大人より飽きっぽい子供の注意を離させないための手段だ。ただ、これをサイケデリック・ムーブメントを経験した大人が作ったり聴いたりすると、トリップミュージックにしか聞こえない、とんでもない代物が出来上がる、というわけだ。
自作の電子音のヘンテコな音と、聞いた事があるようなないような曲調とお気楽な歌による相乗効果で、なんだかうすら笑いしたまま何回も聴いてしまうような常習性がある。
この根無し草感はちょっと他にはない。NHK教育テレビで流れる歌や音楽にも共通する、見た目(聴いた目?)薄っぺらな感じ。これがなんだかすごいなと思う。
大仰だったり、深刻だったり、カッコつけたイメージの一般的な音楽なんて、本当はそんなにたいしたものじゃない。ほとんど表面的なイメージだけで価値があるように見せているだけだ。それと比べて、このコマーシャルな部分が欠落している「何にもない」音楽のほうが信用できる気がする。
ライナー(?)を読むと、アメリカのスリフトショップ(中古雑貨店)で見つけたブルース・ハークのレコードに学校のスタンプが貼ってあったというエピソードがある。
こんな音楽が子供の潜在的な音楽素養になるのだ。そう考えると、ちょっと楽しい。っていうか、このリリースが69年だから、最初に聴いた人たちと大体同世代になるのか。おおぉ、アメリカ恐るべし。

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