ビル・エヴァンス、初めは、あの繊細なイメージがどうも受け付けなかった。
しかし、聴いていくうちに好きになり、結局食わず嫌いってやつだったと分かったというのは、まあ、いつもの通りだ。
スコット・ラファロ存命中のアルバムや、マイルスの「Kind Of Blue」なんていう名盤はもちろんすごいなぁと思うんだが、自分にとってはこのアルバム「自己との対話」は、何だか特別なのだ。
1963年に、ピアノ3台のみの多重録音(連弾)というアイディア自体、ぶっとんでいる。
スタンダードや映画音楽のセレクトは、曲によってはまあ、想像通りなジャズ連弾な印象もある。
部分によってはちょっと3台がぶつかってしまってるような気がするなぁ、というところも無きにしも非ずなんだが、とにかく収録されている「SPURTACUS LOVE THEME(スパルタカス 愛のテーマ)」が、何だかとにかくとてもすごいのだ。
最初聴いた時は、タイトルといいメインリフ(リフ?フレーズか)といい、少々気恥ずかしくて、それだけでちゃんと聴き込んでいなかった。
寝る前に一人でぼんやり聴いていて、突然すごさに気が付いた。
この曲で特に目立つ、すごく速いパッセージ。レフト、センター、ライトに振られたピアノ同士で追いかけあう様は、聴いていてとにかくゾクゾクする。
以前「54-71」というバンドにインタビューしたことがあって、彼らが今のスタイル、音数を極端に減らした音を出していく過程で、メンバー間で「そのフレーズは意味のあることなの?」と指摘されて、意味がないからやめたという話を聞いたことがある。
そういう視点からいえば、このアルバムで弾かれているパッセージは意味がない。
演奏するビル・エヴァンスにしたら、最初に録音したピアノに反応して、スポーツのように無意識に反応しているレベルなのかもしれない。
だが、このフレーズ感やタイミング、そして「全体を見渡せている感覚」は、本当に奇跡的だと思う。
レコーディングというのは文字通り「記録」だ。どんなに作りこんで普遍性を持たせても、その瞬間の「記録」の集積であるのは間違いない。
集積して様々な角度から積み上げたものは、完成度としてはレベルアップしているのかもしれない。
だが、その「瞬間」の「記録」という意味ではブレている。
60年代くらいまでのジャズのレコードが持つ音の説得度は、このブレのなさから来ているじゃないかと思う。一緒に演奏してないように聞こえる70年代以降のジャズって、自分にとってはその「瞬間」がブレているように聞こえるから、あまり面白くないのかもしれない。
そして多重録音でこの「瞬間」を生かしきれるのは、このピアノ3台の録音がギリギリの線なのかなぁ、と思う。
でも、ドラム3台で録音してみたら、何かすごく頭悪い感じになったんだよなぁ。この話は、楽器にもよるかもしれないなぁ。

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