もう立秋も過ぎたのに
大通りは熱線のように伸びていて
影は小さく動くのみ
あの細い道はどこだったんだろう
祖母と手をつないで歩いた空き地だらけの道
昔、母たちの日傘は白く、綺麗で綺麗でそれもまぶしかった。
今の私の日傘は黒く、まぶしさを少しは遮ってくれる
道を曲がると土手が見えた
懐かしい青い草が斜めに生えて
そのまま空に行けそうだったよ
「ようきたなあ、疲れたやろ、うどんもろてくるからな」
無口な祖母が私に言った。
きつねうどんはいつも木のふたがついていて、私は中味を全部平らげた。
うれしそうにみんな見てくれていた。
従兄弟のお兄ちゃんは怖い漫画を貸してくれて
伯母はラジオ体操に連れて行ってくれて
祖父は大事そうに膝に乗せてくれて
祖母は色鉛筆を買ってくれた
なんの心配もなかった日々
私が私でいられた日々
そこで聞いた悲しい猫の話はずっと覚えている
一度姿を消した猫がぼろぼろになって、死にきれず帰って来て
伯母と母が布団に乗せて、その後亡くなってしまったこと
そして私をここに導いたのは、同じくなくなった猫だった
あの子が私の背中を押さなければ
残っていた家も、うどん屋のおばさんに会う事も
お風呂屋さんのタイルを見る事もできなかったでしょう。
魂はそこにある
ずっとずっとここにある
心配かけてばかりだけど、私はちゃんと生きているよ
蝋石で書いた絵は消えてなくなってしまったけれど
みんなの事を覚えているよ
堤防に上って周りを見ていたら
すぅーと風がふいて、日傘を揺らした。
ありがとうと言うのは私の方です
いつまでもいつまでも
見えていても見えていなくても

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