やま「大家さん、人間先が短くなるってえと、生きがいってもんがしぼむね」
大家「おや、今日は哲学的にお目ざめだね」
やま「鉄学的って、あっしあ南部鉄瓶作ってるわけじゃあねえ」
大家「そうじゃないんだ・・・」
やま「そんな固っ苦しいもんじゃなくて、なんだね、どうせ間もなくあの世とやらに行っちまうんだから、夢みてえなもんは無駄じゃねえかってね」
大家「だからみんなあの世に夢をつなぐんじゃあないのかい?」
やま「あっしが言ってるのは、あの世じゃなくてこの世の夢だ」
大家「この世の夢ね。なにかないかい、ぱーっと楽しくなるようなことは?」
やま「♪金も要らなきゃ女も要らぬ、私ゃもすこし背がほしい〜♪ なんて歌ったやつがいたなあ」
大家「やまさんにゃあこの先金も女も縁がなさそうだからな」
やま「言ってくれるね。ま、先が長けりゃあ一つや二ついいこともあるかもしれねえけど、人生こんなもんだって、開き直るよりしょうがねえか・・・」
大家「ま、昨日より今日、今日より明日って考えることだ。なにか昨日より良くなりそうなことはないかい?」
やま「きのう鰯の刺身を食ったけど、今日は鯛かな?」
大家「きのう本醸造だったけど、今日は吟醸酒かな?」
やま「ははは」
大家「はははは」
やま「おあとがよろしいようで・・・お天気もよろしいようで・・・」


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