大家「おや、やまさんじゃないか。どうしたい、くたびれたような顔して」
やま「どうしたかって・・・買い物に行ったんだよ、このあっしが、一人で」
大家「そりゃあめずらしい。で、どこへ行ったんだい?」
やま「きりお」
大家「へえ・・・お天気が心配だな」」
やま「そうですかい?」
大家「いやいや、で、何が大変だったんだい?」
やま「まず、どこに何があるかがわからねえ。
案内看板を見たら、入ぇったところと反対のずーっと向こうだ」
大家「ははは、むこうさんの思うつぼにはまったな。
そうやって歩かせて、色んな店を見せるようにできてるんだ」
やま「しらみねーしょん、ってんですかい?
色んな店っつうより、公園ん中歩いてるみてえだった」
大家「しらみ・・・いるみねーしょんだよ、くりすますだからな。
で、何を買ったんだい?」
やま「今度あっしは“みちのく”に旅するんですけどね。
寒いところだってえから“どろん”ってえんですかい?
やたら暖けぇっていう洋服を買いに行った」
大家「どろん・・・空を飛ぶんかい?」
やま「いや、以前は飛んでたって話ですがね」
大家「それは“だうん”というんだ。羽毛が入った洋服だな」
やま「それを売ってる店に入えったんだけど、どうも気に入ったものがねえ。
色目が派手でね。着るのにちょいと度胸が要りそうな物ばっかりだ」
大家「せっかく行ったのに気の毒だったな」
やま「それでね、店のお兄さんに
『どうでもいいけどここは年寄りは来ちゃあいけねえ所なのかい』
って嫌味を言ってやったよ」
大家「そしたらどうだったい?」
やま「『こちらは“れでえすこおなあ”でございます』って・・・」
大家「しょうがないね、まったく。で、買い物はできたのかい?」
やま「一銭も値切らずに『持ってけどろぼう!』って現金置いてきた」
大家「野蛮な客だな。それでまっすぐ帰ったのかい?」
やま「それがね、駐車場に行ったら車が見当たらねえんだ」
大家「盗られたのかい?」
やま「何の何番って看板を見ていかなかったから、見失っちまった」
大家「なあんだい。やまさん、やっぱり買い物はおかみさん頼んだ方がいい」
やま「そうですかい、なんで?」
大家「“苦しい時のかみだのみ”っていうぐらいだ」
やま「おあとがよろしいようで・・・」

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