やま「大家さん、湊屋文右衛門邸ってのを知ってるかい?」
大家「“かい?”とはご挨拶だな。やまさんたちが月見の会とかで歌った所だろう?
文化庁登録有形文化財、幕末から明治初期の建造という豪商の家だ」
やま「濃尾大震災でも倒れなかったってえから、すごい」
大家「木曽川の舟運で栄えた起宿、しかも渡船場に臨む絶好のろけえしょん・・・
あの建物一つで往時の賑わいがしのばれるという、一級の歴史資料だ」
やま「その一級がね、もう相当痛んでる」
大家「だから登録文化財に指定されて、保存が計られてるんだろう?」
やま「そう簡単にはいかねえ。指定は指定、登録は登録、ぜには出ねえ」
大家「うーん、だからあれかい、市民活動支援事業とかで投票の依頼が来たって訳だ」
やま「そう、市民活動・・・市民といったてあっしられっきとした“しもじも”だ。
それがあのお宝を守っていこうってんだから、並大抵じゃねえ」
大家「そやあそうだ。で、れっきとしたしもじものやまさんは何をやってるんだい?」
やま「聞いて驚くなよ。湊屋倶楽部理事!」
大家「お、驚くよ・・・やまさんが理事!? どんな会なんだい、そりゃあ?」
やま「湊屋倶楽部会則・・・かいそくっていっても快速じゃあねえんだけどね、
その第3条に“有形登録文化財旧湊屋文右衛門邸を使って残すことを目的とする”
って書いてある」
大家「そんなむつかしいこと・・・やまさんは何をやろうってんだい?」
やま「あっしはね、しもじもにゃあそれがてえへんなことだってことを知らせて、
いっしょに汗かいてくれる人を増やそうって仕事。これ見てくださいよ」
大家「おやまあ『野の花』の八重子ねえさんじゃあないか!」
やま「会長さんだ、すごいでしょ? 宮大工さんもいるんですぜ」
大家「座敷だ、しぶいねえ」
大家「おう、これが有名な二連の蔵だ。金木犀がりっぱだね」
大家「離れ座敷もりっぱなもんだ」
大家「これがあれだね、じいふぁいぶがお月見で歌ったときの・・・お社だ」
大家「ようしわかった。こうなったらやまさんのためにもひと肌脱ごうじゃないか。
その倶楽部の会員になるには、会費が要るんだろう?」
やま「いっしょに汗をかこうってえ会員さんは年会費1000円、
運営に携わる正会員さんは年会費5000円、
スポンサー会員さんは10000円」
大家「うーん、みんなの志でなんとかお宝が生き残って行くってことだな」
やま「大家さんならスポンサーがあたりめえ、何口にしやしょう?」
大家「何口? まあまあ、もすこし活動や事業の様子を聞いてから決めようじゃないか」
やま「なーんだ、こんな長話させといて・・・それじゃあ落ちがつかねえよ、大家さん」
大家「おおや、おおや、すまないねえ」
やま「おあとがよろしいようで」

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