大家「やまさん、どうしたい? ずいぶん元気がなさそうじゃないか」
やま「この写真、見てくださいよ」
大家「オットセイの置物かい?」
やま「やだね大家さん、どこ見たらオットセイ・・・おっと、そういえば似てるね」
大家「だろう?」
やま「いや、そういうことじゃなくて・・・
児童館の“裏の畑”のサツマイモの試掘をしやしたらね、
こんな小っちぇえのが一つっきりってえありさまなんで」
大家「おやおや、あんなに精出してたのにかい?」
やま「これなんかもう悲しくなる」
大家「飢饉だね、まるで。どうしてこんなことになったんだい?」
やま「ま、いろいろだろうけどね・・・
まず、あっしが農作物のことをろくに知りもしねえくせに、
わかったようなふりしてやってきたから」
大家「そういやあやまさんは畑仕事なんかやったことなかったもんなあ」
やま「それと、今年“週二日制”って言われて、だんだん足が遠のいちまったこと」
大家「みんな週二日制なんじゃないのかい?」
やま「それは週休二日制、あっしのは週二日しか行っちゃあいけねえってやつ」
大家「休館日にも水遣りとかに行くって言ってたじゃあないのかい?」
やま「そりゃあね、野菜にも子どもにも気になるのがいるんで、
なるたけ行くようにはしてたんだけどね・・・」
大家「子どもも裏の畑もきらいになっちまったんかい?」
やま「そうじゃあねえよ。あのね、出勤日を決めるのにまずあっしの都合を言うんだ」
大家「つまりいろんな役職とかをもってるやまさんが、その関係の予定がない日を申告する」
やま「で出勤日が決まるとね、今までサボっていた会議なんかを断る理由がなくなる」
大家「それでだんだん足が遠のいたってわけかい」
やま「その結果がこうなんですよ。肥料をやるのを忘れちまったりしましてね」
大家「そりゃあよくない」
やま「でしょう? 畑仕事ってのはね、いつも畑のことを気にかけていなくちゃいけねえ」
大家「しろうとがよくそこまでわかったもんだ」
やま「畑仕事ってのは子育てといっしょなんだ!」
大家「よっ、厚生大臣!」
やま「夏前まではなんのかんのと理由をつけて顔を出して、
子どもたちのついでに畑を眺めたりしてたんですがね・・・」
大家「やっと雨が降るようになってつるや葉っぱは伸び放題、
根っこに栄養がたまらないってことだったのかねえ」
やま「よくわからねえけど、ほっときゃ子どもだっておんなじようになるんでしょうね」
大家「そうなると取り返しがつかない」
やま「それなんですよ。畑のことはわかったような顔してあっしがやってきましたんでね、
この先どの面下げて児童館に行けたもんか・・・それがわからねえ」
大家「深刻だね」
やま「でも帰りがけにね、ある子にこの絵をやるよっていったら、えらい喜びようでね」
大家「こんな絵をそんなに喜んだ?」
やま「だってこれがうれしいってことは児童館がよっぽど好きだってことでやしょう?
これで気を取り直せそうだ」
大家「さつまいもも取り直しておくれよ」
やま「おあとがよろしいようで・・・」

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