オペラの会場は渋谷駅近くの「さくらホール」、「渋谷区文化会館」というごく新しい建物の中にある。
一番上はプラネタリウム、ホールは4階、1階には鰻屋やイタリアレストランまである。
9時20分名古屋発の新幹線で出発、12時にはもう「場当たり」・・・キャストの立ち位置を確認し、照明などを調整する。
1時「ゲネプロ」開始・・・本番どおりの最終練習である。
今日の演目は『カバレリヤ・ルスティカーナ』と『パリアッチ(道化師)』・・・『カバレリア・・・』だけに出演、『パリアッチ』のほうは練習不足で迷惑をかけるといけないから辞退したのだ。非常に気にしていたのだが、男性メンバーがけっこう多くて一安心した。
ところが、である。人数が多いのはいいけど男性は、音大の学生とか合唱団のおじさんとか、どうも寄せ集めの感がぬぐえない。
で、ゲネプロの結果なのだが、合唱といえないほどバラバラで、特にフレーズの出だしがそろわない。練習不足丸出しなのである。かといって開演は3時、しかも合唱だけの練習は組まれていない。
そこで、私はG5の倉知くんと奥村くんにこう言った。
「こうなったら、楽譜をきちんと読み直して、われわれがリードして行こう!」
音大の学生とかがいるというのに、なんとおこがましい提案だろう。しかし、時間はない。
私は楽譜を必死に読み返した。ほかの二人も真剣になった。
本番前にビールを飲んで指導者に叱られたことはあっても、直前に練習をするなんて殊勝なことはしたことがない。私は自分自身に感動した。
やはり、わざわざ出演要請してくれた人の期待に答えなければいけないという長男らしい責任感というか、東京まで来て恥をかきたくないという田舎の長男らしさというか、4500円も払って見に来る人に“値打ち”を感じてもらおうとする一宮人の長男らしさというか、なにかこう「田舎人パワー」が東京で湧き上がった感じだ。
3人はがんばったねえ! 自分が出演しない『パリアッチ』の方を観客席で見てそれを確信した。

倉知くんの声が、奥村くんの声が、際立って響いてくる・・・ほら、奥村くんなどみんなが笑っているのに一人だけ真剣な表情だ。

主役さんたちだ。二人が刺されて死んだシーンだ(ギャグみたいだ!)
右側に倒れている人が、岐阜でのオペラ公演で私の奥さんの役をやってくれた、東京藝術大学卒業のサヨちゃんだ。
今回はなんと男役!

右は今回主役の小林先生(東京藝術大学卒業!
サヨちゃんは前に会ったとき照れくさそうに紹介してくれたのだが、このピエロ姿の男性(東京藝術大学卒業!)と結婚。
私、このサヨちゃんのおかげで、東京藝術大学と聞いても「気をつけ!」をしなくてもよくなったんだなあ・・・みんな良い人ばかりだし。
そのサヨちゃん、日曜日の『外套』の公演ではなんとお父さんと“夫婦の役”を演じる!
私が岐阜でやった役を、サヨちゃんの本物のお父さんが演じるのだ。幸せな音楽一家だなあ。
というようなやや余裕のある話も織り込みながら土曜日の公演は終わった。非常に疲れた。
とにかく用意された宿に行って、いっぱい飲んで寝る・・・ほかに思い残すところはない。
「どこに泊まるんですか」と聞かれて「道玄坂」と答えたら、東京のおじさんたちが、
「それはいい、道玄坂はいいところですよー!」
と強調する。そんなにいい所かと疲れた足に鞭打って坂を上ると、こういう感じなのだ。
東京のおじさんたちは、こういうところをいいところだと思っているのか、今でも・・・
私たちのホテルはこの一角だが、まったく雰囲気が違う。
ほら、名前からして「山陽会館」・・・ホテル内には一杯飲むところはなかったが、フロントでこんなうれしい話を聞いた。
「外に飲みにいかれるんでしたら、このホテルの名刺を見せてもらうと刺身一品ぐらい出してくれますよ」
東京にも“ただ”をこよなく愛する一宮人を喜ばせるような仕掛けがあるんだ!
ジョッキーやら徳利やらを傾けながら、
「今日はようがんばったなあ」
「今後もG5がんばろまい!」
厄介なことが一杯たまっている郷土を遠く離れて、疲れも忘れて、ひたすらに自己満足に浸るい〜い夜になった。

2