コーヒーを飲んでいる。
ドリップバッグ―キリマンジャロ・ブレンドと書いてある。
紙袋にちょっと粒々のコーヒー粉が入っていて、それをカップにまたがせて湯を注ぐと出来上がりというやつだ。
ブレンド粉にキリマンジャロが少し混じっているということらしく、したがって少し値段が高いそうだ。
おやじがコーヒー好きだった。ただし抹茶からの転向派で、家では粉末のインスタントコーヒーを呑んでいた。茶碗に粉を入れてお湯を注いでかき回す工程が同じだから・・・上品に解釈するとそうなのだが、実際は豆をひいたりするのが面倒くさいだけだったのかもしれない。
喫茶店にもよく行った。ある日近くの店のママさんから「お宅のお父さん、うちの店でずーっと寝ておられますよ。お迎えに来てあげてください。」と電話があって、あわてて走っていったことがある。
そんなことがよくあったようで、ある時友人から「お前、親不孝やなあ。喫茶店ぐらいいっしょに行ってやったらどうや。」といわれた。しかし、コーヒーを飲んで目を覚ますという話が多い中で、コーヒーを飲んでやすらかに眠るというのは、案外幸せな行為だといえるかもしれない。
おやじは“山口桜汀”という号をもったアマチュア俳人だった。その桜汀が残した句にこんなのがある。
平穏に生きて安堵の秋日和
コーヒー屋の窓にもたれて寝ている老人の姿が思い浮かぶ、名句である。
パソコンに向かって悠長にコーヒーのことなど書いている。実はコーヒーなどどちらでもよくて、今書かなければいけない原稿から逃げているだけなのだ。
6時半・・・せわしない日常が近づいてきた。さあ、朝飯でも食うか!

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