2008/11/5

犬の話  MUTTER


これはある犬の話です。



その犬は、ノラ犬でした
住処は川の土手です。


そのノラ犬にも昔はちゃんと飼い主がいました。
飼い主は彼を品評会に出るような立派な犬に育てようとしました。
彼は飼い主の愛情を得るため、頑張りましたが
頑張りすぎて、とうとう途中で力つきてしまいました。

飼い主の期待が重すぎたのです。

次第に彼は品評会にこだわる飼い主から
自分に対する愛情を感じることをできなくなってきました。

飼い主は本当に自分のことを愛しているのだろうか?
こうして毎日毎日世話をしてくれるのは、
単に品評会で勝ちたいためだけなのではないだろうか?

そこで、飼い主の気を引くため、彼は家を出ました。
しかし、飼い主が彼を探すことはありませんでした。

飼い主も次第に云うことを聞かなくなった犬に
ほとほと手を焼いていたのです。

家をなくした犬は飼い主と散歩をしたことのある土手で
一人暮らすようになりました。

ふさふさとしたキレイな毛並もそのうち薄汚れていき、
食べ物も充分に食べれない犬は痩せて
どんどん汚くなっていきました。

土手には、かつて彼がそうであったように
手入れの行き届いた飼い犬が良く散歩に来ます。

散歩に来る犬たちは、見た目も愛らしく、
何の衒いも無く愛想を振りまくため
土手に遊びに来る人たちからもよく可愛がられました。

しかし、汚くなったノラ犬には誰も見向きもしません。
たまに近づくと露骨に嫌がれます。
時には意味も無く蹴られたりすることもありました。

よその犬はあんなに可愛がられるのに理不尽です。
それでも、ノラ犬は誰かに可愛がって欲しいといつも思っていました。


ある日、ノラ犬は、人間の気を引くため
川に飛び込み溺れた振りをしました。

まだ飼い犬だった頃、室内犬だった彼は
テレビで川で溺れた犬を必死で救助する人間を
見たことがありました。

川で溺れている犬がいれば、
人間は助けてくれるのです。

必死で溺れている犬には、土手に人が集まってきているのか判りません。

遠くで、
「自分から川に飛び込んだんだ。こんなバカな犬を助けることはない。」
という人間の声が聞こえたような気がしました。

それでも、彼は、待ちました。
誰かが助けてくれることを。
























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