1960年前半(微妙)生まれの男の、映画について、音楽について、旅について、本について、そして人生とやらについてのブルース。自作の詩のおまけ付き。書いているのは、「おさむ」というやつです。
since 6.16.2005
To travel is to live. -H.C.Andersen
2006/7/12
哀歌(ブルーズ)
おさむ
電車は結構混んでいて
あなたの隣にどかっとおじさんが腰掛ける
この特急はあと1分で出発する
ネクタイを緩め
靴とソックスの色も合ってなくて
ズボンもしわくちゃだ
あなたは読みかけの文庫本を取り出し
本に集中する
とんでもなくバランスの悪いネクタイと
コーディネイトされていないシューズとスーツのくたびれたおじさんも
その哀歌というやつを背負っていたりして
時々大声でばかやろーと叫んでみたいこともある
ビールをくいっつと飲み
ヒックとしゃっくりをし
焼き鳥にかぶりつく
あなたはそのアルコールの臭いがちょっと嫌で
斜め向うに体を向ける
会社の帰りの女性トイレで柑橘系のコロンをつけた気分が台無し
そうあなたは思う
おじさんもかつては
少年だったわけで
といって少年っていうのは残酷だったりするから
みんながみんな無垢ではなにのだけれど
そのおじさんは純度が高い無垢な少年で
何度も何度もサン・テグチュペリを読んで
飛行機乗りになるのが夢だった
あなたがお酒の匂いを好きじゃないのは
父親のせいだ
いつも大酒を飲んでいた父親の
そんな父親から離れたくて東京の大学を選んだ
大学を出て就職してそのまま一人暮らしを続けている
父親からの電話を受けたのは昨夜だった
用事もないのに
あなたの声を聞きたかったからだよ
電話がきれて5分くらいしてかかってきた母親からの電話で
母親がそう言っていた
たまにはあなたからかけてあげなさい
母親はそういって電話を切った
駅に着くのは文庫本をあと5ページくらい読む間
あなたは今夜父親に電話をするのだろうか
おじさんも
そして
たぶん
おばさんも
哀歌を心のどこかに隠し持っている
そして
ときどき
そのメロディを遠くの遠くのことを思い出しながら
小さく
小さく
奏でるのだ

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2006/7/5
とっても下手くそに
おさむ
今日も とっても下手くそな歌を歌ったでしょうか
今日も とっても下手くそな料理をつくったでしょうか
今日も とっても下手くそな書類を作成したでしょうか
今日も とっても下手くそな会話をしたでしょうか
今日も とっても下手くそなシュートを撃ったでしょうか
いいじゃないですか
いいじゃないですか
いいじゃないですか
あなたは下手くそに今日も呼吸をしたかもしれない
あなたは下手くそに今日も水を飲んだかもしれない
とっても下手くそにしか存在できなくても
いいじゃないですか
いいじゃないですか
いいじゃないですか
そんな下手くそな存在のあなたを大事に思う人がいるのだから
そうだよ
そうだよ
誰にでもそんな人がいるはずだから
いるはずだから
だから安心して
下手くそに眠るのさ

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2006/5/11
月が隠れても
おさむ
月は雲の後ろにあって
おぼろげに微笑む
満月は今週の土曜日だ
月の左30cmに輝く星
空は雲に覆われている
風が流れる夜
初夏の心地良い流れの風
雲に覆われていても月は見える
白い雲が浮かんでいる
夏の太陽の輝きを連想させるような
空き地に伸びる緑の草
建て直される前の一戸建ての家の空き地
草が伸び
土が雨を吸い込み
虫が呼吸を繰り返す
お寺の竹が風に揺れる匂いがする
朝には遠くに見える富士山の姿を想像する
竹の揺れる音が流れる
坂を上る
ずっと何度も上ってきた坂を
坂の上る
ずっと何度も下ってきた坂を
白い白い雲に向かって
まだ
大丈夫さ
きっと
大丈夫さ
月がそこに隠れていたとしても
★気持ちのいい夜、風がとても気持ちよかったです。
たまには、空をちょっとでいいから、見てみようね。

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2006/4/11
咲の場合
おさむ
わたしはちょっと話をきいてほしいだけなのに
ほんのちょとでいいのに
でも
しかたないか
わたしはいつも言い負かしてしまうから
男の人は
おしゃべりの女を嫌うけれど
理屈っぽい女はもっと嫌うから
雨が降り続ける
こつこつと足音が聞こえる
こんなにたくさんの人が行き交うのに
カジュアルなイタリアンのお店に入り
バジルがきいたパスタをたのむ
カップルの笑い声
食器の触れ合う音
パスタをフォークでくるくると巻きつける
わたしもこんな風にくるくると巻かれたいと思うこともある
トマトの赤がなぜかまぶしい
グラスビールを口にする
馴染みのバーはあるけれど
ひとりでカウンターにいると必ずじろじろと見られる
ディーセントな一杯のビールが欲しいだけなのに
馴染みのマスターのとの会話も少し飽きた
男の人がひとりでバーで飲んでいても誰も気にしないのに
別に構わないのだけれど
この人寂しいんだと思われるのがほんの少し悔しい
少しオリーブオイルきかせ過ぎかも
まあいいや
残りのビールをくううと飲み干す
まあいいや
わたしにはタラはないけれど
大雨が近づいてくる。西日本は大雨で大変なようだ。月曜日、火曜日と雨が続いている。昨日は、大阪で14:00から会議で21:00くらいに戻ってきた。新横浜からそのまま横浜線で桜木町方面へ。
BAR GIRASOLE へ。BASS PALEALEをパイントで
たのむ。
マスターの須貝さんと、ナポリタンスパゲティの話をする。世代が近いの
で話が合うのだ。ナポリにもない、アル・デンテもない、ケチャップだら
けのオリーブオイルを使わないスパゲティ。片岡 義男さんもエッセイで
ナポリタンのことは書いていた。ナポリタンは少しずつ消えていく。
おそらく。生まれた時から、デューラムセモリナ100%の「パスタ」
をオリーブオイルをたっぷり使ったぺペロンチーノなどをいただく世代
が増えてくるからだ。小麦粉100%のママースパゲティーのナポリタン
ああ、がんばれ。
そんな感じで、2杯のビールを平らげ、家へと帰っていった。
日付が変わる前、上野行きの最終電車がなかなか来そうになかったので
ミナトミライ駅まで歩いて行った。夜中の日本丸。観覧車は様々な模様
を作り出し続けている。ランドマークタワーを真下からずっと眺める。
パンパシフィックホテルの前を抜け、インターナショナルコンチネンタル
ホテルに目をやる。どこにも「お洒落」なんて装飾はない。しんと静まり
かえったコンクリートの建物は、人間の終わりなき欲の表出なのだ。
否定はしない。ある意味、落ち着く風景だ。道路に散った桜の花びらが
やけに温かく見える。無機質な中の汚れたピンクの花。
ミナトミライ線に乗れば、そのまま東横線につながっていく。
線路はどこまでもはつながっていない。大人になってわかった少ないこと
のひとつだ。

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2006/3/27
ターンをするのは
おさむ
土曜日の夜の野毛にも
それなりに人がいた
卒業式のお祝いなのか
少し着飾った男女の若者が道路に広がっている
左脚が悪い男が体を傾かせながらゆっくり歩いている
その集団を見て
少しためらい
ほんの3秒ほどためらい
ゆっくりと向きを変え
悪い左脚を固定し右脚でゆっくりとアスファルトに弧を描いた
アスファルトに弧の跡が残ったようだった
若い声が聞こえる
少し酔った声が聞こえる
その脚の悪い男に誰も気付きはしなかった
ましてやそのゆっくりとしたターンに
誰もが幸せになりたいさ
誰もが不幸のない人生を望んでいるさ
あなたにはそのターンが見えますか
あなたにはそのターンの痛みがわかりますか
野毛のバー「キネマ」へ行った。キネマで最近気にいっている食べ物が、
ネギチャーシューだ。ネギだけではなく、トマトもつく。結構、いける。
ビールは、カールスバーグの生だ。カールズバーグはデンマークのお酒だ。
土曜日のことだ。上記の詩はキネマへ行くときに、実際に遭遇したひとこまだ。
僕が入ったときに先にいたお客さん(30代の男の客)が、絵本の話をした。『100万回生きた猫』のことだった。昔からベストセラーの絵本だ。
あなたが幸せなときを過ごしている瞬間、誰かが、ターンをしているかもしれない。

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