1960年前半(微妙)生まれの男の、映画について、音楽について、旅について、本について、そして人生とやらについてのブルース。自作の詩のおまけ付き。書いているのは、「おさむ」というやつです。
since 6.16.2005
To travel is to live. -H.C.Andersen
2006/12/9
lost in translation
おさむ
全くもって人生に迷ってしまい
わらをもすがって
大型書店に入る
大型書店のそれぞれのコーナーで
わらをもさがす
自己啓発 自己啓発
手に取った本本本を眺めながら
わらをも食べる
卓越とはもともと備わっているものではなく
習慣の問題なのだ
習慣の積み重ねがわれわれの現在をつくるのだ
何をするかということ
それは全てあなたの選択だ
起きる時間から昼食べるものから
仕事を選ぶことまで
夢を持つこと
夢を文字に書いて
常に意識し続けること
自分に小さな目標を課し
その小さな目標を達成したら
褒めてあげること
なるほどなるほど
書いてあることはシンプルで
それをいかに継続して実践する意志を
持つことが
大事なのだろう
わらをももやす
意志が大事なのだと思い
宗教のコーナーへと足を向ける
いくつものいくつもの教が
たくさんで
そこに在る
自分が人生に迷っているということを忘れ
どの本にしようかと
どの教にしようかと迷ってしまう
38分考えた挙句
急にお腹が空いたので
料理の本のコーナーに向かう
わらをもにこむ
ふと手に取ったスープの本を
じっと見て
クラムチャウダーとポトフに恋をする
なんだ一体この胸のときめきは
そうだ忘れていた
あの感じ
じっとじっと写真のスープの湯気を見ながら
温かさについて考える
温かい料理
温かい言葉
温かい気持ち
そうだ必要なのは物語なのだ
必要なのは
そう思い
小説のコーナーへ
わらはほんのり
女流作家の棚へ
平積みになった本を順番に右から
5ページずつ読んでみる
ひとり暮らしの70歳のおばあさんが
自分の部屋で林檎の皮をむき
中学2年生の陸上部の佐藤紀子が
同じクラスの秀才の道本 翔に
自転車置き場で告白され
ナイジェリアのバーで木藤美樹が
ジントニックのグラスを傾けながら
離婚を決意する
産まれたばかりのコリー犬が
池上家の家族となり
ロンと名付けられ
42歳の白川京子が
35歳の斉木良夫との
子どもを産む
病院で微笑みあう2人
わらがこんがらがり
人生の選択の多様さに戸惑いを覚える
わらははだれじゃ
哲学書のコーナーに
なだれ込む
どの本にも
1ページの2行目までで
拒絶される
誰だ君たちは
何なんだ君たちは
じっと黙っている本に向かってつぶやく
ふと横に並んでいる詩集のコーナーを見て
君たちもだ
と言葉を落とす
わらをもわらう
わらうことが大事だと
古典落語のコーナーに向かい
目をつぶって手にとった1冊をとって
精読をする
まあ生きていくということは
いろんな大変なことがございまして
その大変なことひとつひとつに心を砕いて
おりますとそれだけで終わってしまうようなことも
ございます
まあそれはそれで人生のひとつの過ごし方でもありますが
どうせなら
ちょっとやせ我慢をしてでも
はっはっはっを笑って過ごしたいものであります
まあそうすれば少なくとも
その笑いを見て
不幸になる人はいないのであります
誰かを幸福にすること
きっとこれが生きることの目的ではないでしょうか
わらをもまばたき
閉店時間になり
外へと出る
目についた
居酒屋さんで
熱燗一合をたのみ
もろきゅうをぽりぽりと齧りながら
わははははと小さく笑ってみた
わははっつはっつ
小さな涙の粒を右目に浮かべながら

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2006/11/22
ヒューガルデン、プリーズ
おさむ
大阪と神戸のその間の街の
新しいデザインの少し凝ったマクドナルドでコーヒーを飲む
そこで
過去に風俗店をいくつも経営していて
慶応卒で元新聞記者で元塾の講師で
元信用金庫の社員だった男の本を読んでいた
父親は都銀の役員で
弟は国際線のパイロットだということだった
そんな男の本を読んでいた
隣に若い2人の男が座り
ひとりが大声で話し始めた
2人共大学生なのだろう
その喋りは馬鹿まるだしで
自己陶酔型で
しかも声が大きかった
オフビートで破天荒な赤澤 竜也という男の本が台無しだった
あまりにもその男たちの声が大きく
偉そうに青かったので
その列に座っていた若い女の子たちはみんないなくなってしまった
「お前ら、どうせならチャールズ・ブコスキーのように酔ってみろ」
と捨て台詞を残して席を立とうと思ったが
自分がその年齢くらいのときには
同じように
いや
もっと大馬鹿だったことをふと思い出し
黙って席を立った
東京へと出張に行ったとき
新宿の東口の外れにある「ソード・ロープ」というバーに入った
ぐっとドライな刺すような1杯のジンが欲しかったからだ
店の奥では
ハロルド・ロイドの映像が流れ
バックにはライ・クーダーが流れていた
隣のテーブルには
髪を少し立てた
細身のストライプのスーツに
ノーネクタイで白いシャツ姿の男が
ちょっとオフビートな感覚を持ちながらも
頭の良さそうなかわいい女の子といた
2人共
30歳手前年少さんという感じだった
その男がグラスを傾けながら言った
先輩がさ
そろそろ俺の会社に来いって言うんだよね
お前が来れば課長級だぞって
その女の子が煙草の煙をふうーと吐き出しながら言った
でも
そうそう億単位の取引の仕事させてもらえるとこないからね
コーチングがどうのこうの
質問力がどうのこうの
ソリューションがどうのこうの
そんな話がテーブルの上をころがって
かけらとなってテーブルの下に落ちていった
ドライなジンがちょっぴり酸っぱくなった
ただ一筋にドライなジンを体に流し込みたかっただけなのに
お金があることに越したことはないよな
そう思いながらジンを流し込んだ
奥でハロルド・ロイドがまじめな顔で川を泳いでいた
大阪と神戸のその間の街の
新しいデザインの少し凝ったマクドナルドを出て
空を仰ぎ見る
月が浮かんでいる
半分の月だ
中途半端もいいものよ
大阪と神戸の中間の街の
遅くまで開いているバーに入る
客がいつも少ないバーだ
4つのテーブルに
カウンター
お客はひとりだけ
おまけに禁煙のバーだ
大丈夫なのかと思ってしまう
余計なお世話だ
ヒューガルデン
プリーズ
そのベルギーのビールをたのむ
そのテーブルで
ヒューガルデンをちびちびちびと飲む
ぬるいぬるい生ビールにするためだ
時間よ止まれとは思わない
そんなに多くの望んでも
無理なことは無理だと悟ったからだ
しかし
少なくともちょっと外で待っててくれ
と言いたい気分になるそんな夜
時間に向かって
生ぬるくなったベルギーのビールで乾杯をする
そして
そのとき
俺は絶対的に
孤独だった

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2006/10/25
夜の青空の青は深い
白い雲が流れている
秋の夜の青空の深さに見とれながら
父も母も祖父も祖母も親戚も友達たちも同僚たちも
きっとこんな空を一度はじっと目にしたに違いない
叫ぶがいい
夜の酔っ払いたち
泣くがいい
夜の散歩者たち
笑うがいい
夜の恋人たち
眠るがいい
夜の子どもたち
青はどこまでも深く
そして少し痛い
もう何もなくなったとしたら
もう何もなくなってしまっていたとしたら
それでも
それでも明日はやってくるから
夜の青を消してしまうから
透明なグラスにいれた青い水を
ごくりと飲み干そう
夜の闇が夜の青を呑み込む前に

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2006/9/4
カルバンなクラインを おさむ
秋の香りがほんのりとして
月が満月に向かって太っていく
駅の改札を抜けて
その風に身を寄せる
くんくんくんと香るのは
これはこれは ck one
あなたの視線は先を歩く人たちに向かう
あの白いTシャツにジーンズ姿の女の子に違いない
カジュアルな感じに実はバッグは高めだ
あなたは急ぎ足で歩く
急ぎ足急ぎ足
くんくんくん
あれまあ
違うでないの
風に漂うck one の香り
あなたはまた辺りを見渡し考える
それらしき人は
あの派手目の女の子
あの子はもっと別のにするでしょ
しかし
他には見当たらない
あなたは早足でその女の子に追いつく
早足早足
くんくんくん
あれあれあれ
違う違う
途方にくれていると
横を通り過ぎた50歳代の親父さんから漂うck one
あなたはck one がユニセックス用だったことを思い出す
しかししかし
動揺は隠せないままで
空に浮かんだお月さんが苦笑をしていた
えっとck one って
child kindergarten の略だったけ ck って
なんてあなたは動揺してわけかわらないことを呟く
ck one の残り香を山から吹いてきた風が海に向かって誘拐する
あなたは困ってしまって
苦笑し続ける月に向かって
小さく吠える
ワン

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2006/7/26
青いトーン
おさむ
ブルースってかっこいいじゃん
(あちょー、それはブルース・リーやって)
本当はようブルーズって濁るんだけどさ
(なんで?)
まあいいか
ブルースを帯びる俺
どうよ
(えっつ?なんのこと?)
着古した茶色の革ジャンに纏わり付く青
(それカビちゃうん)
かっぽかっぽ歩く俺
かっこよくない
(ないない)
ブルースハープ鳴らすよ鳴らすよ
(ちっちゃい、はーもにかやなあ)
おいらのるるる
(るるぶって、旅行でもいくんか)
もの凄く平坦な色の白のように広がる青
青な日常
だれもが持っているそんな青色
空は青く
緑は明るい
水をください
わらっちゃうさわらっちゃうさ
(えっ、どないしたん)
きぼうとひらがなでアスファルトに書いた
歯を磨く
朝がやってくる前に
夜に入り込むために
しずかなしずかな歌が聞こえる
まとまりのないトーンで
いくつものブルーズ
聞こえるよ
あなたのブルーズも
かすかにかすかな音で
おやすみなさい

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