2008/11/6
仕事を終え、外に出る。雨が降っている。松葉杖がすべるのでタクシーに乗る。
会社のすぐそばにタクシーが停まっている。小雨の秋の夜、何台ものタクシー
が並んでいる。
東京の銀座でのタクシードライバーのインタビューも最近、テレビで観た。
経済の停滞の影響もあり、タクシーを利用する人が全く減少してしまった
ということだった。
タクシーの後部座席に、松葉杖を入れる。お尻から入る、両脚を最後に入れる。
「いいですか」
「はい、大丈夫です」
タクシーの中では、ラジオが流れている。日本シリーズだ。
お客さんが入ると「ラジオは消しなさい」という規則なのだろう。
僕が入るとラジオをスイッチが切られた。
「日本シリーズですか」
「そうです、ジャイアンツが逆転しました、ジャイアンツの方が強いんでしょうね」
「ライオンズはまだまだ若いですからね。これからどんどん強くなるでしょうね」
野球のことを話す。
ラミレスは、結構、実は緻密であること。
チーム内でも積極的に若い選手とコミュニケーションをとろうとしていること。
億単位で契約金をもらっているのは、野球選手が多いということ。
Jリーグでのサッカー選手では、いないこと。
野球、サッカー以外ではプロとして食べていくのは厳しいこと。
話は、脚のことにうつることなしに、スポーツのことを話しをした。
もうすっかり地元の人のようだった。
「小倉出身でおったやないですか、背の高いフォアードで」
すっかり、小倉リアンと思われている。
「トリニータの選手ですかね」
「いや、トリニータじゃなく、忘れたな」
「思いだせんですね」
そもそも、知らない。地元ではきっと有名なのだろう。
タクシーがセブン・イレブンの前で停まる。マンションの1階が
セブンイレブンなのだ。
890円。
千円札を出す。
110円のお釣りをもらう・
「どうも、ありがとうございました」
「どうも」
きっとそのタクシードライバーは、あの背の高いフォワード、
誰やったかねと、思い出しているのだと思う。
小雨は降っている。松葉杖が滑らないように、地球に立つ。
もう両足は着いている。相変わらず、左足には、底の厚さが9cm
のヒールが入った装具をつけている。
夜は、秋の空気に包まれている。
北海道はもう雪が落ちている。

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