2009/1/24

最近の日本のコンクール事情 A  クラシック・トピックス

ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール in 八王子は、過去にミッシャ・マイスキーや向山佳絵子などを輩出したコンペティションを引き継いだというに止まらず、他のコンクールにはない独特の特徴がある。それは、市民主体で運営されているということである。多くのコンクールは、市などの行政府が打ち出す文化政策としておこなわれているのに対して、カサドチェロ・コンクールは、その成立からしても、市民が自ら盛り立てるコンクールとなっているのである。もちろん、現在では市の支援も受けているが、運営主体としては、「NPO法人チェロ・コンサートコミュニティー」がある。

地元密着、そして、その地元に少しでもクラシック音楽、とりわけチェロの普及を目指していくというコンセプトが、明確である。また、市は、そうしたコンクールの性質を借りて、ボランティアなどの活動を通じ、コミュニティの一体感を高めることを狙っているのだろう。

ジュリーのなかで中心的な人物は、フランス人のアラン・ムニエで、前回のコンクール後も、何度か来日している。氏は現在、パリ・コンセルヴァトワールの教授を務めるとともに、母国のボルドーで開催される室内楽コンクールの総裁を務めている。チェロの審査員として申し分ないキャリアと指導力の持ち主であるとともに、コンクール運営のスペシャリストでもあるというわけだ。

次回のジュリーには、桐朋学園大の学長という重責にもある堤剛。北欧で随一の巨匠にして、シベリウス・アカデミーの教授を務めたアルト・ノラス。ボストンのニューイングランド音楽院、タングルウッドなどで教え、ヴァイオリニスト・潮田益子の夫としても知られるローレンス・レッサー。自ら華やかな経歴を誇るとともに、現在は欧州を代表する名教師となっているルイス・クラレット・・・など多彩である。

さて、これらのコンクールが、過去の演奏記録をインターネット配信しはじめた。浜松は、前回大会の第3次予選と決勝の模様が配信されている。本選のほうは「期間限定」とされているが、出場6人の本選での演奏がノーカットで楽しめる。第3次予選のほうは随時追加されているが、現在、聴くことができるのは、アレッサンドロ・タヴェルナ、クレア・ファンチ、ディナーラ・ナジャーフォヴァ、イム・ヒョソンの4人。これらのコンテスタントが第3次予選で演奏したときの模様が、やはり完全に公開されている。しかも、これらは無料。

なお、同様に、仙台国際のHPでも配信がおこなわれているが、こちらは、かなり短い抜粋であり、やや喰い足りない。

カサドチェロ・コンクールは、iTunes Store を使った有料方式だが、出場したすべてのコンテスタントの音源が用意された。ただし、曲目はカサドのものだけに限っていて、面白いこだわりだ。

こうして見てくると、コンクール事情は大きな岐路を迎えている。そのなかで、日本の新しいコンクールが、ひとつの指針を示しているのは面白い。これらの大会が、良い形で発展していくことを願いたい。
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2009/1/21

最近の日本のコンクール事情  クラシック・トピックス

世界的に見て、日本のクラシック・ファンのコンクール好きは、面白い傾向ではなかろうか。欧米ではかつて権威のあった大会も、その価値が暴落しつつあり、いまも過去の栄光を保ち得ているコンクールは少ないし、また、コンクール自体がなくなってしまう例もみられる。例えば、今年、日本で2回目の大会が行われるカサド国際チェロ・コンクールは、フィレンツェで開かれていたのが維持できなくなったのを、原智恵子の遺志を受け継いだ八王子の市民グループが努力して、日本に復活させたものだった、

世界的にみて、コンクールが増えているのか減っているのかはデータがない。だが、コンクールそのものが音楽家の良し悪しの価値判断として、役に立ちにくいことは、既に幅広いコンセンサスとなっている。現在、コンクール出身者の進出もまだまだ多いが、それよりも、音楽祭や国際的に有名なホールでの演奏歴、さらに、より直接的な名音楽家のサポートが、コンクールによる地名度アップの効果を、完全に上回るようになった。例えば、ピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスは、名のあるコンクールで活躍する前に、フェスティバルなどを通して出現した才能として、一時代を画する存在となっている。いまや世界の人気者となったラン・ランも、そうである。日本人では、小菅優がそうした存在といえるだろう。

だが、その一方で、コンクールは新しい機能を果たすようになってきた。いま、世界のコンクールが競っているのは、コンクールの入賞による知名度の上昇よりは、コンクールを受けるコンテスタントたちのその後のキャリアに、コンクールがどのような貢献をできるかという点に移っている。したがって、各コンクールはコンクール後のアフター・サーヴィスを充実させることと、教育機能を強化することに重点を置いている。また、その質を保証するものとして、審査員の重要性がさらに高まっているといえようか。

つまり、コンクールで入賞した場合、お披露目的な公演が行われるのは当然として、そのほかに地元やそのほかの土地でオーケストラと共演できるとか、単独リサイタルが用意されるとか、そういうことが重視されているようだ。教育面では、浜松国際コンクールのように、コンクール付属のアカデミーを併設したり、期間中にもマスタークラスが行われるなどの取り組みがある。

こうした進化したコンクールの形態をとる大会が、近年、日本に増えている。そのなかでも、仙台国際音楽コンクールと浜松国際ピアノ・コンクールとは、特に高い評価を得ているのではなかろうか。ほかに、高松国際ピアノ・コンクール、大阪国際室内楽コンクール、武蔵野市国際オルガン・コンクールも、評判がよい。

また、日本のコンクールは、質のいいインターネット配信などを使い、地元だけではなく、多くのクラシック・ファンに話題を提供しているのも特長だ。仙台のコンクールはさらに、ホームページを利用した情報のフォローにも余念がない。是非、一度みていただくと面白いが、過去の入賞者などを中心に、誰がどこのコンクールで活躍したとか、誰々がHPを開設したとか、果ては何大の教授になったとか、来日に当たってのメッセージが届いたとか、いろいろな情報を集めているのである。実に、フォローが細かい。
そんな仙台のコンクールの出世頭といえば、若くしてフランス国立放送フィル(張明勲のフランスの拠点)のソロ・コンマスとなり、パリ・コンセルヴァトワールの教授にも就任した、ブルガリアのヴァイオリニスト、スヴェトリン・ルセヴだろう。

さて本年、2009年は、上に挙げておいたうちの2つのコンクールが開催される。いずれも11月に、ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール in 八王子と、浜松国際ピアノ・コンクールがおこなわれる予定である。

浜松は国際音楽コンクール世界連盟への登録が認められてから行われた、第4回以降の進境が著しく、直近のショパン・コンクール優勝者、ラファウ・ブレハッチを輩出したほか、同年には、アレクサンドル・コブリンもコンクールに出場して最高位を分けた。その前の大会では、アレクサンダー・ガヴリリュク、そして上原彩子、フョードル・アミーロフなどが出現し、その後のコンクールの声望を高める結果となっている。審査委員長の中村紘子以下、アリエ・ヴァルディ、ファニー・ウォーターマン、シュー・ツォン、ジョン・オコーナー、セルゲイ・ドレンスキー、ピオトル・パレチニ・・・といった審査スタッフは、世界の名教師を多く含み、その権威を裏付けしている。

なお、毎年、続けられているアカデミーも3月からおこなわれるが、最後のアカデミー・コンクールは、本大会への格好のステップとなっていることでも知られている。

次回につづく・・・
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