2006/10/18

下野竜也のこと  グレイト・プレイヤーズ

私ことアリスは、大した審美眼もないくせに、こいつは凄いと吹聴してしまうことしばしばです。その中の数少ない当たりが、この下野竜也ではなかったかと思います。今でこそ、読売日響の正指揮者に就任して、若きホープとして注目されるようになりましたが、私がはじめて彼の演奏を聴いたころは、まだ、そこまで話題になってはいませんでした。

はじめて聴いたのは、2003年の11月、東響の演奏会でした。メインは、ドヴォルザークの交響曲第6番、ウゴルスキのピアノ独奏でプロコフィエフの2番、前プロにヒンデミットの弦楽と金管のための協奏音楽という、一風変わったプログラムでしたが、下野にとって、これは同楽団へのデビューでした。いまにして思えば、彼が大事にするヒンデミットやドヴォルザークが入っていたわけですから、良いところに当たったといえるでしょう。2000年に東京国際音楽コンクールの指揮部門、2001年にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したばかりで、東響としては、随分早くに抜擢したといえます。

それからたったの3年ですが、この間に、下野はみるみるうちに、若手のトップに上り詰めていきます。2004年から2005年ぐらいをピークに、下野は日本中のオケを振りまくって、傍からみても厳しいスケジュールを縫っての活動がつづきましたが、彼のやっていたブログなどを通じて、日本中から聞こえてくる評判は、どれも普通ではない熱さを帯びていました。彼は、決してエリート街道を歩んできたわけではありません。桐朋は出たわけですが、もとは鹿児島大の教育学部音楽科の出身で、小澤征爾のような大指揮者に引き上げてもらったわけでもありません。イタリアやウィーンで学んで、湯浅勇治に師事したこともあります。この先生は、下野の仲良しの金聖響や、いまをときめくアルミンクを教えたこともあるようですね。キャリアのスタートは大阪フィルのアシスタントだったので、少しは朝比奈パワーが働いたかもしれませんが、下野の場合、先に述べたような血の滲むような献身的な働きのおかげで、各楽団から一目置かれる存在になっていったようです。

下野の音楽的特徴は、スコアを徹底的に大切にするということでしょう。でも、それは音楽家として当たり前の態度です。しかし、実際、どうなのでしょうか。自前でスコアを隅々まで研究し、それをオーケストラのメンバーにうまく伝え、形にし、誰の影響でもないオリジナルの演奏をしてくれたなと実感させてくれる指揮者は、さほど多くないように思います。彼の演奏する音楽は、例えば、2005年末の東京フィルで振った「第九」のように、まったく耳慣れないものになることもありますが、しかし、こんなものは○○ではないと言いたくなる要素は、不思議と存在しません。それこそ、彼がスコアに忠実に、自分だけの音楽をつくっていることの証拠です。

下野の得意とするのは、既に述べたように、ドヴォルザークやヒンデミットです。これは、自分でも公言しています。あとは、朝比奈=大フィルのDNAを受け継いだともいえるブルックナーです。0番の録音が発売になっていますが、この「ヌルテ」を演奏するということを、上司になるスクロヴァチェフスキに話したら、はっはと笑われたとどこかのインタビューで話していました。そうそう、12月には、名古屋フィルでブル5を振るのです。どうすれば券が買えるのかもわかりませんが、これは注目です。あとは現代音楽、特に日本人作曲家の作品に思い入れがあるようです。正指揮者として初めての登場になる読売日響でも、コリリャーノを振ります。それから、彼はもともとブラスをやっていたらしいので、その分野の曲目にも拘りがあり、演奏もブラス楽器を上手に使ったものが多いように思います。佼成ウインド・オーケストラにも、ここのところ続けて出演しています。

以前に、下野は金聖響のHPからリンクを引いてブログをやっていたのですが、もう閉店してしまって、熱心なファンが勝手に集っている状況になっています(それはそれで凄いですね)。それを読む範囲では、下野のユーモアに満ちた人柄に加え、ある種のひとなつこさや、やさしさ、薩摩人らしい素朴な正義感、それに、ちょっぴりの孤独さみたいなものが、よく伝わってきます。そうそう、昨年、下野は母君を亡くされておりまして、その前後の投稿はなかなか胸が痛い内容でした。当時、彼はミサ=ソレの本番で・・・個人的な話は、止めておきましょう。いずれにしても、彼が1回振ったオーケストラは、必ずと言っていいほど、彼のことを呼び戻しています。そのことが、下野竜也の指揮者としての実力だけではなく、人間性の素晴らしさも表していると思います。

CDは、ブルックナーのほかでは、次のようなラインナップがあります。

@大栗裕 大阪俗謡による幻想曲 ほか (NAXOS)
Aバルスカウスカス vnとvaのための二重協奏曲 ほか (AVIE)
Bチャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 ほか (エイベックス)

@Aも良いですが、独奏:川久保賜紀で、新日本フィルと録音したBは、かなりレヴェルの高い演奏で、去年、話題になっていたジョシュア・ベルの録音などより、よっぽど素晴らしい演奏だと思います。川久保のテクニックが良い方向に導かれており、繊細で、細部に至るまで情報量の多い伴奏のエネルギッシュさと、スリリングな関係が楽しめて面白いディスクです。過去の名盤と比べても、遜色ない出来といっては言い過ぎでしょうかね。
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