2009/9/23

ボッセ ブルーメン・フィル 定期演奏会 9/22  オーケストラ

ブルーメン・フィルは、アマチュアながら質のいいオーケストラである。今回、ゲルハルト・ボッセが3度目の客演、しかもシューベルトを演奏するということで足を運んだ。

最初の『序曲〈静かな海と楽しい航海〉』は交響曲などにも表れるメンデルスゾーンらしい特徴が凝縮した佳曲である。バロック・オペラによくある冥界の雰囲気を思わせる〈静かな海〉の気だるい長閑さに対し、〈楽しい航海〉の輝かしい響きは胸のすくようなものであり、全体としては作品の詩情を捉えた佳演。

2曲目は、モーツァルトの『交響曲第40番』である。快速なテンポ、刈り込まれた響きによるスリムな演奏。繰りかえしはしっかり全部演奏し、テンポが速くても、演奏は1つ1つのパーツを実に細やかに練り上げたあとが窺われる。こうした演奏には考える時間があって、考える材料も繰りかえしの度に増えていくのでありがたい限りなのだ。しかも、リズムの配置に若干の変化をつけて、少しずつ聴き手を刺激することも忘れない。コンサヴァティヴな手法ではあるが、それだけに効果的である。

全体としてみると、アンダンテが印象に残るように工夫されている。しかし、そのことから直ちに連想できることとはちがい、モーツァルトの交響曲で2つだけの「短調」としての特徴は、さほど強調されていない。とはいえ、清楚で柔らかなメロディーは繰りかえしを通って、少しずつ味が濃くなっていき、この交響曲のもつバックボーンを控えめに語ることは確かだ。このシンプルなドラマトゥルギーの進行は、メヌエットでも同じように効果的である。ただし、ボッセの場合、このメヌエットはトリオの明るさが本体である。

信仰のパワーに支えられながら、人間の弱さ克服していくための讃歌。これが、ボッセのト短調交響曲への解釈である。対位法的な響きが露骨に用いられるドラマティックな場面で、そのコンセプトがもっとも明快に表れている。全体を通した特徴として、響きの受けわたしの美しさや、楽器間の重なりの美しさについても見逃せない。例えば、第1ヴァイオリンとホルンのような遠い関係にある楽器が、きれいに重なっている箇所があるのを提示していたり、ある楽器を起点にして、響きが周囲に拡散していくときの自然な流れが、ゆったりと印象づけられている。決して派手ではないが、粘りづよく、指の先まで神経が行き届いたような演奏である。

メインのシューベルト『交響曲第2番』は、曲の難しさというものを感じる。単純な運動性が表面的に目立つが、実は、驚くほど繊細な構造で組み上げられた楽曲なのだ。弦は高度な機動性に加えて、洒落っ気たっぷりな跳躍性を求められている。管はこうした弦の特徴的な動きに密接に絡んでいくが、シューベルトの書いた管の構造は甘く、いわばフリーハンド的、即興的、もしくは室内楽的であって、奏者の自主性がポイントになってくるのである。

この日の演奏では、良くも悪くも、第2楽章が印象に残っている。アンダンテの優しい主題は、それこそ童心に戻ったかのようなキュートなフォルムをみせていた。あまりにも子どもじみたナイーヴな響きなってしまったのは問題だが、ヒューマニティの点でいえば、オーケストラ全体の優しい雰囲気を印象づけてくれて、マイナスばかりではない。また、そこが素朴に印象づけられることで、あとの2楽章が、この楽章を基にしたヴァリュエーションのような雰囲気となり、全体の構造が凝縮した印象を与えたのも事実である。

ボッセのシューベルトは、バッハ、ベートーベンに連結するシューベルトの、時代的なポジションを感じさせるものだ。リズム音型などからはベートーベンの影響も濃厚に感じられ、もちろん、対位法的な構造が要所に浮かび上がるのもお約束だろう。ボッセの場合は、起伏に満ちて彫りが深く、バスの重視、要所での第1ヴァイオリンのメロディ・ラインへの明確なこだわりや、トゥッティにおけるボウイングの機能美など、彼にしかできない芸当がしっかり埋め込まれているのに気づいたはずだ。

ボッセが元気であれば、共演は回を重ねていくことになるだろう。素直にボッセの音楽に向きあっていく、ブルーメン・フィルの姿勢はよく演奏に表れてい微笑ましい。指揮台に上り損なったり、アプローズのときにしっかり袖まで引っ込まないうちに戻ってきたりして、愛らしい所作で客席を笑わせていたが、それでも2本足でしっかり歩行し、まだまだ元気なところをみせていたボッセの、末永い壮健を祈りたい。

【プログラム】 2009年9月22日

1、メンデルスゾーン 序曲『静かな海と楽しい航海』
2、モーツァルト 交響曲第40番
3、シューベルト 交響曲第2番

 於・杉並公会堂
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2009/9/21

ローレンス・カミングズ チェンバロ・リサイタル 9/17  ピアノ

英国ヘンデル・フェスティヴァルのディレクターを務めるローレンス・カミングズが、一夜限りのチェンバロ・リサイタルを開いた。今回、同フェスティヴァルでも助手を務める林美枝を伴い、デュオ作品を含むチェンバロのしらべを楽しませた。

【カミングズの温かいおもてなし】

まず強調したいのは、カミングズの放つ強烈なコミュニケーション能力についてであるが、同時に、カミングズがまず、音楽に人間らしい生命感を求めるタイプの音楽家であることも付け加えて申し述べないとバランスを欠く。チェンバロ本来の華やかな音色から導かれる、独自の色彩感と詩情に立体性を与え、音色の温かさや、ナチュラルなものに溶け込んでいく響きの柔らかさといったものを丁寧に体現していた。

例えば、ルイ・クープランの『組曲(ハ長調)』で、カミングズは鍵盤を叩いているという感じよりも、指で弦をはじいているような手ごたえある響きを際立たせ、楽器本来の持ち味を遺憾なく発揮している。この肌ざわりとでもいうべきものが、彼の演奏を自ずから温かいものにしており、演奏者の人柄の素晴らしさをイメージさせる。アーティストとオーディエンスのあいだに距離(壁)のない、東京オペラシティ・近江奏堂のこじんまりとした雰囲気も手伝って、明るく開放的な一体感に包まれた会場中が、カミングズ氏のこころの籠った「もてなし」に、すっかり上機嫌になってしまったのである。

そのルイ・クープランの演奏については、後半のサラバントとパッサカリアで多用したルバートがきわめて効果的であり、ゆったりした穏やかなフォルムをしっかりと構築しながらも、ほんの僅かに揺らぎをつくり、思いがけない要素を忍び込ませるカミングズの遊びごころに、いきなり打ちのめされてしまった。最後のパッサカリアは、同じようなフレーズを繰りかえして、曲が進行するごとに神々しく羽が開いていく構造をダイナミックに盛り上げていくが、間でレバーを閉めて、素朴な響きになる部分の感興が、かえって堪らない。終盤、レバーを全開して大胆な響きが広がる部分のスリリングさが、また凄い。ルイ・クープランの作品をよく知らなかっただけに、余計に驚かされたものであろう。

主役のヘンデルは2曲。『組曲(ホ長調)』(HWV430)では、平易で快活なメロディを大事に演奏している。ヴィルトゥオージティは抑えられ、あくまで歌ごころに基づいた自然なラインが、柔らかく提示される。最初のクープランと同様、無理のないルバートがほんのり効いていて、聴き手を温かな気持ちにしてくれる。

2曲目のニ短調の(HWV428)のほうが、作品としては本格的なものとなる。深い音色でプレリュードが気高く始められたとき、カミングズは、これからどういう曲を弾くかをしっかりと印象づけてしまった。きっちりした対位法の構造に基づくアルマンドはやや速めで、切れ味が鋭い。先に印象づけた歌ごころが覗くアルマンドは、じっくりと聞かせてくれる。

クーラントを序曲に、アリアが始まった。前の曲のアリアと比べるとより苦味があり、装飾も複雑になる。変奏はそうした特徴を反映してか、先の曲よりも技巧性をしっかりと打ち出していた。先のクーラントから、アリア、変奏、そしてプレストまでは、少しずつフォルムがだぶりながら推移しているのがわかり、そうした構造的な面白みを拾いながらの演奏である。変奏の最後を鮮やかな技巧で一挙に盛り上げておき、まるで二重のプレストを布くように演奏していくアイディアは興味ぶかい。

林とのデュオとなり、バッハ『2台のチェンバロのための協奏曲』(BWV1061)が演奏したが、チェンバロ2台の動きが実に細やかに書かれている特徴が、この師弟コンビの演奏で明らかとなる。この林美枝という人も相当の腕前で、個性は借り物としても、それをこれほどまでに自由自在に使いこなせるのであれば、もはや借り物などという必要もない。いちばん大事なことは、表現のレヴェルでこころが共有できていることである。

なんといっても、最後のフーガの見事さには感謝したい。2人が頻繁に立場を変えつつ、内面から燃え上がっていき、よく言われるような宇宙的な響きに突き抜けていくまでの集中力が素晴らしい。特に、要所でザクザクと歯切れの良いリズムが表れ、全体を引き締めていく点に感銘を受けた。また、立場の交換の効果により、2人がいつも最初の素朴さを持ち続けており、それを自然な流れで膨らましているのに気づくと、一見、変わり映えのしない繰りかえしの世界に、めいめい一回的な命が宿っていくのがわかるはずだ。

こうした作業の繰り返しのなかで、魂が自然に昂揚していくとき、キリスト教に帰依しているかどうかには関係なく、誰もが「天」をイメージせずにはおられないはずだ。驚くべきことに、カミングズと林の演奏からは予定調和的なものがまったく感じられず、いま曲が生まれたような新鮮さが味わえた。この曲は、いわばアンコールのようなものなのに、これほどの出来で聴けるとは願ってもないことだった。

アンコールでは、なんとカミングズの歌声まで聴けて、サーヴィス満点のコンサートがおわった。彼はこの日、聴きに来た人たちを確実に満足させたであろうし、それだけではなく、その日まで彼のことをほとんど知らなかった人たちからも、絶大な愛情を獲得したにちがいない。といって、彼は巧まずして、それをやり遂げたのである。

【プログラム】 2009年9月17日

1、L.クープラン 組曲 ハ長調
2、F.クープラン 2台のクラヴサンによるアルマンド〜第9組曲
3、ヘンデル 組曲 ホ長調 (HWV430)
4、ヘンデル 組曲 ニ短調 (HWV428)
5、バッハ 2台のチェンバロのための協奏曲

 (共演) cemb:林 美枝 @第2曲、第5曲

 於:東京オペラシティ 近江奏堂
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