2007/6/5

仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門はバーエワが優勝  クラシック・トピックス

週末は少し海外に出ていたが、コンクールは、1日と2日でファイナルを迎えた。楽しみにしていた結果を開くと、やはり大本命のアリョーナ・バーエワが優勝ということになったようだ。セミの演奏は一枚抜けていたから、この結果は当然というところだろうか。

彼女は今後、きっとソリストとして一花を咲かせることになるだろう。技巧性の高さ、音色のゆたかさなどはともかく、どんな曲を弾いても、彼女らしい個性というのが、しっかりした出汁となって、楽曲のフォルムのなかに溶け込んでいるからだ。また、楽器との一体感の高さも、他のコンテスタントにはない特質であろう。

ファイナルで弾いたチャイコフスキーなどは、名曲中の名曲だが、バーエワはともかくも、一から楽曲を読み込んでいることが、はっきりわかる演奏をしてくれた。しかも、「あれっ」と思わせる箇所でも、(瞬時に)十分な説得力を感じさせたのだ。

第1楽章のカデンツァの麗しくも、柔らかみがあって、なんとも伸びやかな響きを聴いてほしい! 第1楽章はそれだけに限らず、細かい修飾音に特長があって、聴きごたえがある。緩徐楽章は、弱奏のヴィブラートの使い方が独特で、それが厭でも感動を誘うことだろう。しかも、それが決して臭くはないのがポイントになる。適度に品のいい表現に止めているのだが、若い彼女は、このバランスをどのように体得したのであろうか。終楽章はストレートな表現で、颯爽と弾きおわる。

彼女の強力なライヴァルと思われた千葉は、ドヴォルザークを選んで5位に沈んだ。煮込みが足りない感じがして、セミのプロコフィエフと比べると、やや守りに入った感が否めない。とはいえ、フィジックに朗々と歌い上げるイメージを塗り替え、響きも少し刈り込み、より繊細に色づけていこうとする千葉のチャレンジは、興味ぶかいところもある。今回はこのような結果に止まったが、私自身の評価では、少しトップとの差が開いたものの、相変わらず2番手の評価を残しておきたい。

長尾もそうだが、日本人の2人は、自分の力を出しきれなかったようなファイナルだった。メンタル面もあるのかもしれない。長尾は最下位になったが、いかにも一杯一杯の演奏になってしまったのが残念だ。メンデルスゾーンは旋律が有名で、若い奏者が弾くことが多い曲目でもあるのだが、その実、意外と演奏効果が上がりにくく、表現の難しい楽曲であることを知っておくべきだったのではないか。

これに対して、第2位に入ったエリン・キーフは、自分に足りないものをオーケストラに補ってもらう感じで、絶妙の選曲だった。パスカル・ヴェロにとってはお国ものになるし、仙台フィルの音は、こういう曲目に最適になるようにチューン・アップされているらしい。それを感じ取ったのか、キーフのほうは持ち前のキレ味鋭い技巧を真っすぐに伸ばし、これを曲中にどっしりと打ちつけて、サン=サーンスらしい肩で風をきる演奏に仕上げている。

2位だが、賞金は200万円。その額だけをみれば、他のコンクールの優勝者と変わらないレヴェルだといえよう。

韓国のシン・アラーが、私の予想からはジャンプ・アップしたが、ファイナルのチャイコフスキーは音色のゆたかさと、その伸びやかさが半端ではない。上位2人とは、演奏の安定感(音程を含めて)にいささかムラがある点と、オリジナリティの少なさで差があるのかもしれない。

大物感のあるアンドレイ・バラーノフの弱点も、安定感のなさである。セミでもそうであったが、独特の呼吸で音楽をつくるバラーノフは、本当に面白い音楽をつくるので、ストリーミングでも人気を得ているのがわかる。第1楽章のヤマから、あれだけの怪我をしてさえも、この順位に置かれたということで、審査員の期待値は大きいのであろうと思われる。

予選でこういう演奏すると通らないが、ファイナルであることが幸いした。減点法になりがちなコンクールで、彼が4位に留まれたこと(さらに、シン・アラーが3位に上位入賞したこと)は、このコンクールの懐の深さを物語っている。現時点ではちょっと粗いが、磨きがかかれば、かなり高いところを目指せる逸材であるのかもしれない。

全体を通して、仙台フィルのパフォーマンスの良さは特筆に価する。特に、ヴェロを指揮台に迎えてのファイナルは、コンテスタントたちの演奏を力強く支えて見事だった。今年の東京公演で好評だったのに自信をつけたのか、いわゆる地方都市オーケストラでは、もっとも進境著しいというべきであろう。

なお、10日からは改めて、ピアノ部門の選考がはじまる。
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