2009/1/30

群響、新体制へ!  ニュース

群馬交響楽団の、新しい常任指揮者兼芸術アドバイザーとして、沼尻竜典が就任することがメディア上で伝えられている。正式な就任は、2010年の4月から。また、これに伴って、伊藤文乃のコンマス就任もあわせ伝えられており、こちらは一足早く、この2月からの着任となる。お気づきのように、この2人は、先週のTMPの演奏でもコンビを組んでいた2人だ。楽団に密着した活動をつづけた高関健前音楽監督に遠慮してか、沼尻本人の意思を尊重して、「音楽監督」ではなく、「常任指揮者兼芸術アドバイザー」という肩書きになったそうだが、実質的な職務・権限のちがいはない模様だ。

記事によると、2年前に亡くなった沼尻の母親は桐生市の出身であり、生きていれば、大変に喜んだはずという同氏のコメントが紹介されている。群響は、地方オーケストラの中でも歴史が古く、また充実したアウトリーチ活動を展開し、県下の学校に通う生徒たちにとって身近な存在であるというのが大きな特徴でもある。沼尻の亡母も、市民オーケストラから出発し、プロオケとして成熟していく楽団のことを、よく知っていただろう。

TMPのレポートにも書いたように、複数のポストを得ている沼尻が一体、どれぐらいのウェイトをかけて、楽団を支えてくれるのかは不明だ。だが、TMPで学んだようなアウトリーチの手法は、群響とも共通点があるようだし、古典から新ウィーン楽派まで、幅広い音楽的知見をもち、数々のオーケストラやホールの運営に携わってきた経験は、得がたいものになるのかもしれない。昨今の経済危機が影を落とすかもしれないが、評判の悪いホールの改修も話題に上がっており、楽団は岐路を迎えた。

伊藤は先日も紹介したように、かつての広響コンマス。群響も継続的に関わっている草津の音楽祭で、学んだ縁がある。広響の職務を終えたあとは、ソリスト、フリーのコンマスとして、神奈川フィル、TMPなどに出演していたようだ。群響にとっては、60年を超える歴史のなかで、はじめての女性コンマスの誕生となる。

TMPは、ジョン・ネルソンの率いるパリ室内管をモデルにしたという沼尻だが、新しい群響のモデルとして挙げたのは、ラトルが飛躍的に発展させ、いまはサカリ・オラモが一時代を築いているバーミンガム市響だ。群馬を、日本のバーミンガムに・・・志は大きい。まあ、人口では既に勝っている!

1年間、プランを練るというから、早すぎる論評は避けよう。再来年のシーズン・プログラム発表が、まずは試金石となるだろう。
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2009/1/25

沼尻竜典 ハイドンの主題による変奏曲 ほか TMP 49th定期 1/25  オーケストラ

沼尻竜典&トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ(TMP)は贔屓のアンサンブルなのだが、このブログには初めて書くような気がする。演奏会が年に2-3回しかないので、タイミングが合わないとご無沙汰になってしまうものらしい。

しばらく来ないうちに、このアンサンブルの顔だったコンマスの佐ブ(にんべんに分けると書く)利恭子や、日フィルへ羽ばたき、一時、コンマスとして戻ってきたこともあった江口有香、ここからN響へ羽ばたいていったオーボエの和久井仁などというメンツが見つからず、代わって、広響のコンマスだった伊藤文乃、神奈川フィル奏者の成田恵子(ob)などが加わっており、すこしずつメンバーに異動があったようだ。日フィル首席の星野究(tp)なんて、いつ入ったのだろう? よっぽど常設に準じる定期的な活動があるとはいえ、臨時編成にちかいグループなので、今回、たまたま出ていないだけのことかもしれないが。

【目当ては谷村由美子のエクスルターテ・ユビラーテ】

さて、この日の最大の呼び物は、日本を代表するリリック・ソプラノ、谷村由美子が歌うモーツァルトの有名なモテット「エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ喜べ、汝、幸いなる魂よ)」だった。この曲は、非常に技巧的な導入曲〈エクスルターテ・ユビラーテ〉からレチタティーヴォを挟み、やや重めの〈精処女の冠よ〉を歌ったあと、コロラの技法も華やかな〈アレルヤ〉に突っ込むという、ほんの20分ばかりの間に、歌手として重要な要素がいくつも試される難曲である。アソコがいいとココが駄目、歌の部分がいいとレチタティーボは駄目ということになりやすく、しっかりした基礎と、その幅広い応用力が試される。肝心の歌そのものはシンプルで、屈託のない美しさ。信仰心に満ちた、優しい小品である。

その点において、谷村は高い点をもらうことができるだろう。今回の沼尻は、どの曲もかなり快速に弾き飛ばしていたが、そのペースにちゃんとつけながら、どの要素も少なくとも九分以上の出来でまとめた。〈エクスルターテ・ユビラーテ〉の細かい技巧の部分で、やはりアジリタの得意な人と比べると、若干、コロの切れ味が劣るのを除けば、明るい隈取りの良い歌唱だった。レチタティーボへの感情の乗せ方、〈精処女の冠よ〉の清楚な歌いくち、〈アレルヤ〉の多彩な歌いまわしなどが、魅力的だ。この曲では一歩間違えば、声が老けてしまったり、逆に、幼くなりすぎる場合もあるが、谷村の声は清潔そのもので、適度に年輪を重ねた女性の成熟した祈りの歌を聴くことができた。

とりわけ、〈アレルヤ〉の爽やかな歌唱では、会場がぱっと華やぐようだった。2日はやい生誕日の贈りものに、天国のモーツァルトも喜んでいるだろうか。

沼尻はオーケストラ曲も器用にやるが、本質的に、声楽、オペラの分野が、よく合っているようだ。この曲では歌手の持ち味に合わせて、重めの方向か、技巧的な方向のどちらかにシフトして、フォルムをつくることが多いが、沼尻は素直に、各々の楽曲の持ち味に従った演奏を試みている。例えば、全体的にスポーティな特徴を示しているが、レチタティーボなどは歌手に任せ、オルガンなどの通奏低音をじっくり効かせている。このコンビは、びわ湖でも同曲を共演済みで、安心して聴くことができた。

オペラといえば、アンコールで演奏した「ドン・ジョヴァンニ」序曲は、次回、50回記念の演奏会形式オペラ公演の予告編となるが、素晴らしい演奏だったので、歌手次第であるとはいえ、楽しみである。

【その他の曲目】

メインは、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」である。ヴァリエーション職人であるブラームスの作品のなかでも、渋線中の渋線であるが、意外にクラシック・ファンには好きな人が多いという曲目だ。

この日、全体的に感じたことだが、粗い部分と繊細な部分が同居している。最初のテーマの演奏は、非常に丁寧で、ファゴット、ホルン、コントラバス、オーボエなどのコンビネーションが美しい。ところが、勇壮な第2変奏などになると、ややフレーズの処理が雑で、工夫がない。第3、第4変奏は、管楽器の情報量が多く、きっちりしたアンサンブルが、安心感を与える。第6変奏は評価が難しく、思いきったフォルムの揺らしがスケルッツォ的な雰囲気を与えているが、アンサンブル全体はすこし乱れが多い。優美な第7変奏は音色が美しかった。最終変奏はガッシリしたフォルムをつくり、沼尻のこだわりが十分に聴かれる部分である。

以前と比べると、TMPはより大きな表現を目指すようになったものの、一方、アンサンブルはすこし粗めになっているのではないか。それを特に実感したのは、沼尻独奏によるモーツァルトのピアノ協奏曲第25番の演奏であった。モーツァルト後期の協奏曲としては珍しく、ゴージャスで、光り輝くような作品の性質は、十分に示した。だが、全体にすこしリズムが詰まっており、響きが窮屈だ。それはあるいは、明らかに煮込みの足りない感じの、沼尻の独奏のせいであるかもしれないが。

日フィルのポストからは離れたが、そこでの仕事も完全になくなったわけではなく、西のびわ湖ホールの芸術監督、大阪センチュリー響首席客演指揮者、そのほかのオケへの客演など、国内で重みを増しつつある立場からは無理もないが、以前、聴いていたような協奏曲の出来は、今後、期待できないかもしれない。とはいえ、専業のピアニストでない人が、僅かな練習時間で、あそこまできれいに弾きこなしてしまうのは一才能というべきだろうか。

なお、前プロには、モーツァルトの短い交響曲、第26番を用意したが、それなりの出来。

【みたかジュニア・オーケストラ】

この日はTMP演奏会の露払いとして、メンバーの指導も受けている「みたかジュニア・オーケストラ」のプレ演奏があった。内藤佳有を指揮者に、ベートーベンの交響曲第1番の両端楽章を演奏したが、これが驚くべき演奏だ。残念ながら、いまは人数が少なく、1stヴァイオリンが2プルトしか作れないで、ヴィオラのほうが多いという状況。コンバスは1人(背の高い女の子)。フルートの子はうまいのだが、間もなく卒業してしまうということで、演奏前には沼尻も団員募集を呼びかけた。TMPメンバーが足りないところを少しずつ補ってはいるが、ファーストは子どもたちに任せ、2番フルートとか、弦のいちばん後ろのプルトで、あくまで補助的な役割に徹している。ただ、黒木岩寿のコンバスなんていうのは、どうしても目立ってしまうが。

それにしても、1stヴァイオリン=2プルトの頑張りなんて、すごいものだ。ただ音がデカイというのではなく、ちゃんとアーティキュレーションに合わせてダイナミクスをつくり、周りの響きを聴いてアジャストし、弱奏から強奏まで丁寧に出し入れしているのだから、これだけでも私は感動した。でも、それだけではない。アンサンブル全体が、よく聴きあっていい演奏をしている。ティンパニーも精確なリズムを守りつつ、思いきって叩いているし、木管もクラリネット、フルートなど(ほかの楽器が悪いわけではない)、艶やかでいい音を出している。そして、12月に客演した安永徹の指導を受けたというだけあり、先の1stヴァイオリンに限らず、弦セクが素晴らしい。ヴィブラートを抑制したヘルシーな奏法をしっかり身につけ、そこからいかに艶やかな響きにもっていくか、苦心のあとが窺える。

指揮の内藤が引っ張り、ガッシリしたベートーベン像を組み上げていた。これは、素晴らしい。3月に彼らにとっての本番があるが、できれば聴いてみたいと思った。

【プログラム】 2009年1月25日

0、ベートーベン 交響曲第1番より両端楽章
 (みたかジュニアorch. cond:内藤 佳有)
1、モーツァルト 交響曲第26番
2、モーツァルト ピアノ協奏曲第25番
 (pf:沼尻 竜典 *弾き振り)
3、モーツァルト モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」
 (S:谷村 由美子)
4、ブラームス ハイドンの主題による変奏曲

 コンサートマスター:伊藤 文乃

 於:三鷹市芸術文化センター(風のホール)
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