2008/6/9

ボロメーオSQ メンデルスゾーン 弦楽八重奏曲  SQW〈フェスタ〉 6/8  演奏会

ボロメーオ・ストリング・クァルテットを「キュレーター」としての、クァルテット・ウィークエンドのフェスタ・シリーズも、最終日を迎えた。私は日曜の2回だけだが、足繁く通った人もいるらしい。この日は、再びクァルテット・エクセルシオをパートナーに演奏した、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲がメインだ。

【シューマンの二面性】

前半は、エクがシューベルト得意の未完成曲、弦楽四重奏曲第12番「四重奏断章」で露払いのあと、ボロメーオ単体としては、このシリーズ最後となるシューマンの弦楽四重奏曲第1番が披露される。前回のバルトークは気に入らなかったが、このシューマンは、均整のとれたお手本のようなパフォーマンス。第1楽章、アンダンテ・エスプレッシーヴォからアレグロへの、切り替えのしなやかさ。第2楽章はチェロのつくる頑強なマーチ風の音楽に乗って、がっしりした重厚な響きが印象に残るが、トリオの優しげな表情も忘れられない。アダージョ楽章は引っ張らず、上品な響きをゆったりと奏でる。

第4楽章は、典型的なソナタ形式をはっきり感じさせながらの、構造感のしっかりした演奏。形式が保守的である分、近代映画音楽を先取りするような映像的な叙情性が、一種の新しさを感じさせる。シューベルトの断章では、さらに突き抜けた新しさがあって、まるで現代音楽のような響きもあるなかで、シューマンの新しさというのは見逃しがちかもしれない。だが、この演奏を聴くと、やはりシューマンという作曲家もまた、一歩先を行く音楽家であったことがはっきりとわかる。

だが、ボロメーオのメンバーは、そこにバロック的な要素をそっと偲ばせることも忘れてはいない。これは第2楽章のトリオでも印象づけられており、シューマンの二面性をきれいに描き出している点は、きわめて興味ぶかいものがある。

【相性の良さがここでも顕著に表れた】

さて、メインとなるメンデルスゾーンは、室内楽の王たることを宿命づけられた名品でありながら、クァルテットを丸々2つも用意しなければならないこともあって、作品の価値に見合った扱いは受けられないでいるように思われる。最初にいってしまうと、今回のボロメーオ+エクのオクテットは、今後、なかなか聴くことができないであろう秀演となった。かつては、世界のオーケストラにはなくてはならないと言われた日本人だが、やはり、こうした繊細な表情づけは、欧米人の得意ならざるところではないか。壮麗な曲想の中にも、よく均整のとれた、美しくも気品あるフォルムが印象的な演奏となった。先週も述べたように、1本1本がしっかりと弾ききって、樹木のようにどっしりと屹立するボロメーオと、すっきりした一枚岩の表現で、聴き手の内側にすっと入りこんでくるエクの相性は、すこぶるよかった。

例えば、アンダンテ(第2楽章)では、1本1本の響きを重視するボロメーオの姿勢が、美しい旋律線を引き立てるバックの印象を際立たせることになり、ともすれば、すっと流れていってしまうかもしれないイメージが、瞬間ごとにぐっと迫ってくるような印象を残した。第1ヴァイオリン・ファーストの曲想が、平面的に引き伸ばされていくのではなく、それを支える全体がぐっと立体的にせり上がっているのが、きわめて大きな効果を生んでいる。

【対向配置】

なお、オクテットはチェロの2人を中心に、室内楽では珍しいと思われる対向的な配置を採り、1本ずつが点々と位置を占めた。第1ヴァイオリンのファーストはキッチン。その隣から、タン、元渕、大友とファースト群を形成し、折り返して、キム、吉田、山田、西野という順で並んで、セカンド群が陣取る。これは響きのバランスの問題でもあるが、ボロメーオのメンバーが特に重視するアイ・コンタクトや、ファーストとセカンド両群の奏者でかけあったり、被せあうような場面での対比がしやすいことを睨んでの、優れた「戦術」であろう。その分、楽器ごとの音色の分離がときどき悪くなるが、全体としては、1本1本の主張の伝わりやすさのほうが、かえって印象的に思われる。

それは第1楽章のような優美な部分でいっそう効果的であり、スケルッツォ(第3楽章)のようなしっとりした部分では、若干、ひ弱な印象を与える。もちろん、これは言葉のあやで、スケルッツォが悪かったわけではない。

【フーガの成長が著しい終楽章】

プレスト(第4楽章)は響きの受け渡しが活き活きとしており、そこから発展していくフーガの成長が、実に力強く表現されていた。キッチンが仕掛けると、打てば響くというように、きっちりと反応していく周りの反応力は、この8人の行き着いた到達点の高さを示している。コーダに入ると、どの奏者もきっちりと歌いきり、8人のうち3人しかオトコがいないアンサンブルとは信じられないほどの、芳醇な響きが実をつける。大詰めは西野・山田・吉田がまわり込み、キッチンらの響きを包み込むように襲いかかる中、そこを突き抜けていくファースト群の響きが、颯爽と立ち上がっていったフィナーレは見事だった。

これだけの演奏を聴かせてくれれば、もう楽しくて仕方がないというところだ。長くて、熱心なオヴェーションに、出演者たちの表情も緩む。特に、シリーズを闘い抜いたボロメーオのメンバーたちの充実感は、表情に表れている。産声をあげた企画の、最初のディレクター(キュレーター)に彼らを迎えたことは、TAN(トリトン・アーツ・ネットワーク)のふかい洞察を物語るものだろう。そして、エクのみんなも、日本を代表する若手クァルテットとして、十分すぎるほどの存在をアピールした。

【楽しみな今後のシリーズ】

これが2週間だけで終わってしまうのも、ちょっと残念な気もしてきた。今後は「ガレリア」シリーズに移り、4つのグループが独特の企画をこなしていくのだ。そして、来年6月、今度はカルミナ四重奏団がキュレーターになって、4回のシリーズが予定されている。それはそれで楽しみなのだが、このボロメーオのパフォーマンスも、発展的に繋いでいきたいという想いは、誰もが抱いたのではなかろうか。今回の演奏の模様はCD/DVDになり、クァルテットのHPから買うことができるとはいえ、そういう意味ではないのだ。そうした想いに、どのように応えていくのかは、TANに課された宿題のひとつとなろう。今後の「ガレリア」では、やはりエクの来年1月の企画で、間宮芳生とウェーベルンを取り上げるのが、もっとも興味ぶかい。次のフェスタ・シリーズを含め、SQWの今後が楽しみである。


【プログラム】 2008年6月8日

1、シューベルト 弦楽四重奏曲(断章) D.703  演奏:エク
2、シューマン 弦楽四重奏曲第1番  演奏:ボロメーオ
3、メンデルスゾーン 弦楽八重奏曲  演奏:ボロメーオ+エク

 於:第一生命ホール
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