2008/1/28

イム・ドンミン ピアノ・リサイタル リスト【ロ短調ソナタ】ほか  演奏会

世界のコンクールで名を馳せるイム・ドンミンのリサイタルをトッパンホールで聴きました。本来は、新国にアリアドネを見にいく予定でしたが、前日のコンサートでやはりピアノはいいという想いが働いたのと、チラシのお顔がちょっとソフトバンクの宣伝の犬っころに似ていて、可愛らしかったのが、ここに来た理由です。すこし表情が緩むと、この顔になる。うまく撮ったものだ。もちろん、コンクールで高い評判を聞いていたのと、ベートーベンの31番が大好きだからという理由もあります。

さて、全体の印象を先に述べておきますと、まだまだ未完成な感じのする若者ではあります。でも、力が抜けて弾けているときには、はっとさせられる表現力の持ち主ですね。弱奏でのパフォーマンスは魅力的です。ところが、力強い打鍵では、そのエネルギーが粗野なほうに向かっていると思います。しかも、使いすぎです。技術的には、本当にとんでもないレヴェルにあります。あとは、それをどういう風に使っていくかということで、より深い練り込みが必要なのではないかと思います。

演奏は、最初のベートーベンの31番のソナタが白眉だったかもしれません。特に、第3楽章のフーガの部分が見事で、精妙なフーガのラインをくっきりと描き出していた上に、内面の美しさがよく表れた演奏です。しかしながら、さらに面白かったのは、その後のアレグロ・マ・ノン・トロッポとの対比。フーガの響きをいったん収めたあと、ドンミンは、このソナタが正しく晩年のベートーベンの作品であることを強調するように、重苦しい曲想をしっかりと拾い上げ、再び現れるフーガ的な部分に救いを求めるかのようなイメージを描き出していきます。ですが、そこはベートーベンですよ。弱々しく折れそうなこころを、ほとんど痩せ我慢のように持ち上げて、精神の力強さを最後に書き上げるという構造と内面の対比を、しっかりと示してくれたのでした。

つづく、ベートーベンの「熱情」ソナタは、かなり強引だと思いますよ。確かに熱い曲ではあるのですが、先程もいったように、強靭な打鍵を使いすぎているし、それがまた切断的に聴こえるのです。リスト「ロ短調ソナタ」の前半も、そんな感じでした。ただ、ことリストに関しては、もともと野生的な感じが持ち味というイメージもあり、こういう風に弾く人も珍しくない。でも、それでしっくり来たことはほとんどないんです。ドンミン自身の演奏に関しても、後半の緩徐的な部分を過ぎてからのほうが、響きもマイルドになって良かったと思います。彼は確かに、ものすごく力強い打鍵を個性として持ってはいるけれど、それを出したところで、楽曲の表現にプラスになっている部分は、むしろ少なかったのではないでしょうか。そうではなく、ドンミンが本来の自分のペース、ちょうど、すこし表情を緩めたときの犬っころの表情をした彼のような、そんな感じで弾いているときのほうが、ずっといいものを出せていると思うんです。だから、あの強靭なタッチは、一つの楽曲の限られた部分で、ほんの少しだけ使うようにしたほうがいい。

敢えて、得意のショパンを封印して、新しいレパートリーを披露してくれたイム・ドンミン。それにしても、やはりアンコールで見せたショパンのスケルッツォは、本当に素晴らしかったですね。また、韓国の作曲家のフォーク・ソング・ポップス風の曲にも、思わず、うるっと来たです。こういうのを、ドイツ系のがちっとした曲目で、どういう風に生かすかを考えてほしいものです。今後の成長に期待!


【プログラム】 2008年1月27日

1、ベートーベン ピアノ・ソナタ第31番
2、ベートーベン ピアノ・ソナタ第23番「熱情」
3、リスト 3つのノクターン「愛の夢」第3番
4、リスト ピアノ・ソナタ ロ短調

 於:トッパンホール
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