2008/1/19

ハウシルト ブル8 新日本フィル 1/19  演奏会

この日は、ソワレの東響の演奏会だけの予定だったが、一人、気になる指揮者を見つけたがために、ここにやってきた。ヴォルフ=ディーター・ハウシルト。新日本フィルへは2002年にブルックナーの5番で初登場、朝比奈翁の代演を成功させたこともあって話題となり、3年後に再来日。同じくブルックナーの7番で好評を得たのち、年末恒例の第九にも登場した。そして、ここで3度、ブルックナーを振ることになるのだが、これに先駆けて、ちかく発表された来季のラインナップにも名前がある。ポストにあるわけでもないのに、これだけ頻繁に呼ばれる外国人の指揮者となると、新日本フィルの場合はほとんど例がない。

さて、その相性のよさは、なるほど今回の演奏会でも確認できたといえよう。彼のプロフィールは事前によく調べなかったが、聴いていて、カペル型のしっかり足場を固めてきた指揮者であることは、ハッキリと感じ取れた。音楽の継ぎ目などでやや唐突な印象を与えるような部分もあり、アレッと思わせるところもあるが、全体に帳尻を合わせてくる。溢れるカンタービレがよく効いているが、性温厚なのか、とても温かい響きをつくる。要所で明確なイメージを構築していくので、細部でときどき疑問符がついても、音楽そのものがつよく印象に残るようだ。

第1楽章は、やや粗い。正確に言うと、個人技に走りすぎていて、ガチャガチャした印象を与えるのだ。ただし、それは各々が押しあおうとするときの副作用であり、勇み足とでもいうようなものだろうか。ソロが非常に健闘しており、オーボエ(ランブレラス=客演/水戸室内管で見たことがある)、フルート(白尾)、クラリネット(重松)のトライアングルに加え、トランペット(服部)、ホルン(吉永)などが、TPOにふさわしい表現を立派に決めて、聴き手を楽しませた。特に、ペットから硬軟織り交ぜた、様々な音色を引き出した服部孝也の妙技が耳についた。

中間2楽章が素晴らしい。特に、スケルッツォは、前楽章で見えたような個人主義的なところが抑えられ、アンサンブルが引き締まって聴こえた。明確に舞曲をイメージした活力に溢れた響きが、明朗に流れる。きっちりしたフォルムが明確に象られ、いかにも得意の部分という感じだ。トリオを挟んで、ダ・カーポするわけだが、すこしリズムを遅らせてみたり、修飾を微妙に変えてみたり、絶対に同じようにはやらない。ただ変化をつけるだけでなく、初めにゆったりと作った部分は、繰り返しでは鋭くしてみたり、徹底してシンメトリカルな構造に沿った音楽づくりをデザインしている。その見事さには言葉もない。

アダージョは、「荘厳にゆっくり、引きずらず」という指示そのままだ。弦の弾きだしが、まず涙が出るほどに美しい。最初のA、B部あたりは、本当に繊細なアンサンブルで、この日の白眉ともいえるかもしれない。全体にゆったりしたアンサンブルが、滔々とつづくが、やはり優美なカンタービレがきれいに構築され、飽きるようなサウンドではない。

クライマックスを形成する2つのヤマは、いずれも若干の乱れが生じたが、私は、そこに至るまでの流れに感動を覚えた。具体的には、ピッチカートから先の部分である。管の響きや金管の上品な音色が気分をつくり、まるで天国へでも昇っていくような錯覚を起こさせたからだ。すなわち、クライマックスは、天国への到達と、その祝福である。その後、減衰していく響きは、その儀式が済んだあと、安らかに眠っていくような印象を与え、日常にはない安心感があった。最後、井手首席率いるワグナー・チューバ隊の吹奏も優しかったが、この部分は、スダーンに投げキッスをもらった東響の演奏が、どうしても忘れられない。

ここまで来ると、終楽章はオマケのようなものになってくる。やはり個人戦のような感じがして、最強奏部では響きが汚くなるが、もはや、そんな苦言も意味を成さないだろう。全体に燃焼度が高く、きわめて力強い。コーダでの、井手首席のワグナー・チューバのソロの素晴らしさ! トランペットの吹き方が面白く、全奏で朗々と強奏を競うなかで、思いきって響きを刈り込み、バロック風の動きを見せているのが特徴的だ。その効果もあり、信仰に篤いブルックナーらしくオラトリオのような荘重な響きがする。これならば、ハウシルトのインタビューを読んでいなくとも、音が切れていきなり「ブラーヴォ」などとは言えないはずだが、興奮気味に声だす人もちらほら。無粋とはこのことかもしれない。しかし、そんなことで演奏の素晴らしさが汚されるはずもなく、ハウシルトはしばらく何もなかったように、祈りを捧げるように動きを止めて、ややあって振り返った。

良い演奏だったが、ハウシルト自身への評価は依然微妙であり、どんなオケを振ったときでも、聴くべき指揮者かというと、それは疑問かもしれない。だが、ことNJPへの客演ならば、楽しみとはいえそうである。ドイツものも結構だが、プロコフィエフやショスタコーヴィチなど、いいかもしれない。ブルックナーなら、6番を是非!
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