2007/12/31

下半期 コンサート・ベスト10!  演奏会

先日は、年間のオペラ鑑賞について総括してみましたが、改めて、オペラ以外の分野から、今年のコンサートをまとめてみたいと思います。順位はあまり厳密なものではありませんが、とりあえず、トップ10を並べてみましょう。

1位 ヴィンシャーマン/水戸室内管 ゴールトベルク変奏曲
2位 V.ブロンズ(pf) 平均律クラヴィーア曲集第1巻
3位 井上道義/NJP ショスタコーヴィチ8番
4位 広上淳一/KST バルトーク「弦チェレ」
5位 サイトウキネン タケミツ・メモリアル(室内楽)
6位 プレヴィン/N響 ダフニスとクロエ
7位 V.アファナシエフ(pf) 塩田千春展(ショパン)
8位 下野竜也/読売日響 第九
9位 S.ガベッタ(vc)&NJP エルガー「チェロ協奏曲」
10位 フェルメール・クァルテット ベートーベン

バッハが1、2を占めることになったランキングは、私としては、やや意外に思えます。なぜならば、自分はそれほど大バッハの音楽を特別には考えていないから。しかし、ヴィンシャーマンにしても、ブロンズにしても、こころから愛する作品への素直な共感が染み出しており、そうしたものは、我々のような者にもダイレクトに伝わってくるものです。そういう意味では、3位の井上のショスタコーヴィチへの想いも凄まじいものがありました。8位・下野の第九も同じような意味をもち、上手に演奏しようとか、自分の解釈を気に入ってもらいたいとかいう野心の感じられない、素直な解釈で、ベートーベンの思い描くありのままのイメージを伝えた演奏が印象に残ります。下野は今年の日本の楽壇では、非常に注目された存在でした。来年の活躍も、読売日響を中心に楽しみなところ。

一方、6位、7位、10位あたりは、「演奏者」対「作曲家」という構図が、はっきりと見て取れる演奏でした。彼らはそれぞれ独特の表現世界をもっており、音楽そのものの持つアイデンティティを蔑ろにすることなく、しかも、その内部から外皮を破っていくような力強い作用がみられたのです。特に7位のアファナシエフの公演は、ショパンのわりに有名な曲目を使いながら、塩田千春のアートとのコラボを交えることで、これまで聴いたこともない新鮮な世界観を築き上げたことで注目されます。4位と9位は、むしろ、音楽のほうに身を任せて、最高の再現にこだわった演奏の、著しい成功例であるといえるでしょう。広上と紀尾井シンフォニエッタ東京の演奏は、このグループの演奏史を辿るとき、必ずや語り草となるはずの1ページを刻んだに違いありません。ソル・ガベッタは、既に世界中で引っ張りだこのチェリストですが、技術力の高さとともに、底なしにゆたかな表現力をまざまざと見せ付けてくれたのが記憶に残ります。

6月に書いた上半期のランキングとあわせ、新たにトップ5を並べてみます。やはり、1−3は、下半期の公演の印象が優位となります。

1位 ヴィンシャーマン/水戸室内管 ゴールトベルク変奏曲
2位 V.ブロンズ(pf) 平均律クラヴィーア曲集第1巻
3位 井上道義/NJP ショスタコーヴィチ8番
4位 ガンバ/東響 ショスタコ12番
5位 エヴェリン・グレニー 打楽器リサイタル

なお、順位には、「熱狂の日」の公演は抜いてあります。


フレッシュマン賞 ソル・ガベッタ(vc)

ベストアマチュア賞 Orch.ダスビ・ダーニャ タコ15

ベスト・ソリスト F.P.ツィンマーマン(vn) ベルク

最悪の出来事 ギルバート/N響 ベートーベン「英雄」
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2007/12/29

ファンタスティック・ガラ @神奈川県民ホール 12/29  演奏会

神奈川県民ホール主催の「ファンタスティック・ガラ」を見てきました。佐々木典子、臼木あい、樋口達哉、宮本益光と好きな歌手ばかりの出演でしたので、とてもリラックスして楽しむことができました。伴奏は、松尾葉子指揮の神奈川フィル。司会は、ピアノの斎藤雅広。

会場に入ると、フラワー・アレンジメントとムーディな照明、少しですが気の利いた飾りがしてあって、なかなか趣向を凝らした雰囲気。舞踊も入るため、前のほうの客席を潰して大きな張り出し舞台が組まれています。普通の演奏会のときと実は変わらないのですが、こうしてみると、オケの遠いこと!

前後半1時間ずつ、中身はワルツにポルカ、オペレッタ、オペラ・アリア、バレエ、ライト・クラシック系音楽、ブラスなど多彩。舞踊は、自らダンスカンパニーを営み、教育者としても有名であるという杉原ともじが振り付けた、神奈川県芸術舞踊協会のメンバーですが、これがなかなか見ものでした。モダン・バレエのうちでも、かなり自由なスタイルであるように思いますが、シュトラウスUのワルツ「南国のばら」では、メイン・ダンサーが素足で踊るという意表をついた発想で、和の要素も取り入れた動きで独特の世界を構築して面白かったです。グノーの歌劇「ファウスト」の〈ワルプルギスの夜〉のバレエ音楽(抜粋)では、コール・ド・バレエによるフォーメーションの美しさが見もので、強弱にあわせて全体が進退して音楽とのコミュニケーションを図るなど、動き自体は月並みですが、常に譜面を意識したような動きのデザインには共感するところが多かったですね。

やはり、ガラ・コンの盛り上がりは、重唱で築かれるものでしょう。前半は、オペレッタ「こうもり」からの〈1週間もひとりで〉の三重唱と、〈時計の二重唱〉で勢いをつけ、例の「南国のばら」で一ヤマを築いたあとは、レハール「メリ・ウィドー」の世界に移り、佐々木典子のチャーミングさが印象的な〈おバカな騎兵さん〉、間にポルカ「ハンガリー万歳」を挟み、佐々木&宮本の「メリー・ウィドー・ワルツ」で第2のヤマ。ここまでのオペレッタ群は、すべて訳詞による日本語での歌唱です。

若いソプラノの品評会には最適な、グノー「ファウスト」の名アリア〈宝石の歌〉では、臼木あいさんが精巧なコロラで聴かせます。彼女はザルツブルクに留学中とのことですが、もともと天才的な技巧面にはさらに磨きがかかっており、今後の成長ぶりに期待は膨らみます。このアリアは中間の技巧的な部分で大きく得点しましたが、後半の追い上げはやや強引な感じもします。あの美しいフォルムのままで、最後をぐっと持ち上げられるようになったら、鬼に金棒というところでしょう。

同じく「ファウスト」の名アリア〈金の子牛〉を宮本が歌い、〈ワルプルギス〉のバレエ音楽で前半が終了。後半は、斎藤の独奏で、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」で始まり、ライト系の音楽がつづきます。「サマータイム」は、ピアノと3本のサックスによる演奏でした。アンダーソンの「セレナータ」は、再びバレエ付きで。同じくアンダーソンのワルツ「舞踏会の美女」は、本家・シュトラウスUとの比較が面白いものの、やはり「ワルツ王」を向こうにまわしては分が悪いですね。ライト系の最後は、アンダーソンの名曲「トランペット吹きの休日」を、「サマータイム」で活躍のサックス・トリオを中心にした編曲で演奏。途中までサックス隊が頑張り、中間で本家のトランペットが受け継ぐ間に、サックス隊はゴロゴロしたり、前列のお客さんと握手をしたりというコメディ付き。最後は再びサックス隊が中心で頑張り、拍手喝采!

おわりは、出演の歌手がひとりずつでオペラ・アリアを歌って締めます。佐々木典子は、レハールのオペレッタ「ジュディッタ」という珍しい演目から、〈唇に熱いキッスを!〉。歌い崩すような前半は、彼女のキャラクターにあっていない感じもするものの、ドラマティックな声の膨らみを上品に使った後半の追い込みはさすが。臼木はヴェルディ「仮面舞踏会」より、オスカルのバラータ〈輝く星をみて〉を魅力的に、かつ、コンパクトにまとめました。二期会の本公演で歌った大西ゆかと違い、女性的な華やかさを残しつつも、ボーイッシュな、役に立たない勇ましさも表現できている。技巧的な部分は軽くなりやすく、それが女性的なものに流れやすいのですが、しっかりしたポジションが役どころに必要な男の要素を与えてくれます。

樋口達哉は、ヴェルディ「リゴレット」、マントヴァ公の名アリア〈女心の歌〉を熱唱。フォルムのくっきりした歌は気持ちがいいのですが、高音の抜けには若干の課題もあります。司会の斎藤にスター扱いされていましたが、確かに最近の活躍ぶりは目立っています。さすが、私の選んだ2006年の最優秀男声歌手です。宮本は、ヴェルディ「マクベス」のアリア〈憐れみも、誉れも、愛も〉を、これまた熱唱しました。私はこのオペラが大好きなのですが、このアリアは、それまで格好わるい場面ばかりが続いたマクベスが、最後に一旗あげる大クライマックスになっています。このあとマクベスは出陣し、マクダフに討たれるのです。それにしては、宮本の歌はやや余裕を残しすぎでしょうか。全体に美しいフォルムは外国人を凌ぐものもあるのですが、ここはもっと、マクベスの人生が壊れるとともに、なにか不思議な解放が起こるような歌唱の追い詰め方が求められます。

最後は、佐々木&樋口のヴェルディ「トラヴィアータ」の〈乾杯の歌〉。残念なことに合唱がないのですが、佐々木のゴージャスな声がそれを感じさせないのです。樋口も、佐々木に引っ張ってもらって、もう1段、ギアを上げることができました。アンコールに、お約束の「ラデツキー行進曲」。ちょっと変わった手拍子を、指揮者の松尾と、出演者の動きにあわせてやりましたが、ちゃんとあっています。さすが日本人だ!

松尾葉子の指揮は、それなりのものではありました。縦を揃えるのが巧いですね。日本語のオペレッタなどは、音符にあわせて言葉を詰めていることもあるので、もうすこしテンポを保持したほうがいいと思われる箇所もありました。でも、全体としては、盛りだくさんの内容をソツなくこなしたと思います。「メリー・ウィドー・ワルツ」では、コンマスのヴァイオリンと、チェロのソロが素晴らしかったです。ライト系の曲目では、金管がやたらと巧いんですね。このデッドなホールでは、もうすこしプレゼンスを上げたほうがいいとも思うのですが、そうすると繊細な響きは失われてしまうかもしれません。難しいものです。

昨年はオペレッタ・ガラと称して同様の企画を開催したそうで、佐々木、宮本は、昨年に引き続いての出演。指揮者の松尾も同じで、彼女は、今年の首都オペラの公演でも、神奈川フィルを指揮していますね。今年はすこし装いを変えての公演でしたが、いろいろに趣向を凝らした面白いガラだったと思います。来年もあるなら、オススメです。
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