2007/10/8

高関健 新交響楽団 マーラー 交響曲第9番 10/8  演奏会

アマチュアの新交響楽団が、マーラーの交響曲第9番に挑むという記事は、数日前のものだ。この日が、その本番である。前プロには、武満徹の「トゥイル・バイ・トワイライト〜モートン・フェルドマンの追憶に」が演奏されたが、とても難しい曲と感じてしまった。武満としては、ちょっと早巻きしすぎたような感じもしたし、一本一本の楽器に、いま一歩のデリカシーが求められるのではないか。

休憩を挟み、いよいよ、メインのマーラーの交響曲第9番である。さすがに、前日があの美しい響きのフェルメールSQのコンサートだっただけに、序盤は粗さも耳についてしまった。加えて高関は、冒頭部分で素材をひとつひとつ置いてみせて、プレゼンテーションするような感じの音楽づくりをしたので、やや流れにスムーズさを欠いた。一本一本の楽器に、デリカシーが足りないという欠点は、この曲にも共通する問題だった。

しかし、徐々にアジャストがとれてくると、高関独特のアーティキュレーションやバランスが明確になってきて、目指すフォルムが浮かび上がってくる。響きは9番としては明るめにデザインされ、喜劇的で、たっぷりひねた諧謔も含みこんだ、4番の延長線上のような形になっているが、これには、なるほどと納得させられる。ビルド・アップとスクラップを繰りかえし、最初の楽章がおわる頃には、随分と落ち着いた・・・いや、この表現は正しくない。彼らの力強い表現が、はまってきたというべきであろうか。

中間のダブル・スケルッツォ(レントラー楽章とロンド=ブルレスケ)は、聴きごたえがあった。第2楽章にはまだ粗さも残るが、弦のボウイングまで細かい指示が行き渡っているものと見え、トリルの響きなどは極上だ。ファゴットの動きもしっかり掴めて、良い響き。後半に表れるフルートのソロに、バックでホルンが弱めに被せる部分は、フルートの喰らいつきが素晴らしく、全体の中でも印象的な一幕である。

第3楽章は、やや音色に不足があるものの、キレのいい動きは出色である。ヴィオラなど、差し挟まれる弦管のソロ部分も軽快。ヴィオラ首席のおじさんは大好きなのだが、パート全体としてこの楽章で効いており、無窮動的な弦の動きのなかで、彼らがわさびのような音色の変化を付けてくれた。総じて勢い重視だが、バスの重みが要所を締め、ときにリズミカルに刻まれるなど、決して、それだけの演奏ではない。アダージョは弦が中心となるだけに、この楽章での管セクションの充実は、聴きごたえがあった。ソロ部分のほか、最後の終結に向かっての激しい場面でも、細かい音色がアンサンブルをきれいに埋めている。

アダージョはどうなることかと思ったが、とても良い演奏だった。弦のアンサンブルの丁寧さは、序盤でとりわけ顕著に感じられ、慈しむように弾く奏者たちの姿から、彼らが私と同じように、この楽章を本当に大事に思っていることがわかって、涙が止まらなくなる。第1楽章ではもっとデリカシーをと嘆いたのに、その同じ奏者たちが、ここでは最後のプルトまで、全身に緊張をみなぎらせ、各シーンに見合った美しいアンサンブルを築いていた。被ってくる管の響きも、これまでの楽章では考えられないほどに丁寧だ。

最初のクライマックスに至るまでの、弦のコクの深い響きは、上のような理由もあり、積み重なるごとに深い感動を誘う。だが、作為的な部分はほとんどなく、まるで、この曲ならば、こうして感動的な演奏をするのも簡単だという感じの、余裕のあるパフォーマンスには舌を巻く。弱奏部分でも前半の楽章とは打って変わって、デリカシーに満ちた響きが織り込まれていき、何の不満も感じることのない、行き届いた演奏だった。

静かになってからの響きは、それまでのこころの高ぶりを洗い清めてくれるかのようだ。次々に表れる断片的なソロが、どれも素晴らしいのは驚くべきことだ。エピソードを支えるための、ハープの輪郭もしっかりしている。その後の盛り上がりは、どちらかというと、自然な感じで、こころの奥深くには、敢えて触らないという感じにしている。もちろん、これは、無味乾燥という意味ではないことを断っておく。最後、すべてを受けるように演奏するチェロのソロは、さすがに力量不足かもしれないが、手も震えるようなシチュエーションをうまく乗りきった。

そこから、ppp の終結部分までは瑕もないではないが、たとえしっかり弾けていない部分があるにしても、そのことをいうのは野暮と思われるほど、こころの入った弱奏がつづいた。我々はそれを、非常に冷静に聴くことができた。結局のところ、高関は、マーラーがこの曲の先に、死を見越していたなどという潔さを信じていないのではなかろうか。その代わりに我々が目撃したのは、どんなことがあっても生き抜いてやろうとする、マーラーのつよい生存への意識だ。高関は、死と関連づけられる9番のイメージを、きれいにひっくり返してみせたのである。終演後は、長い沈黙が空間を支配したが、私は、その大仰な静かさには若干の違和感を抱いたかもしれない。今回に限っては!

彼らは、出来るだけのことをした。カーテンでは、涙を浮かべている団員もいたように思う。というか、演奏がおわるより先に、感極まっていた奏者も少なくないように聴こえた。それは、表現者としては理想的なことではないかもしれないが、想いは十分にわかる。これだけやってくれれば、私の設定した高いハードルも、しっかり越えてくれたとは言えそうである。

【プログラム】 2007年10月8日

1、武満徹 トゥイル・バイ・トワイライト
2、マーラー 交響曲第9番

 於:東京芸術劇場
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