2007/10/30

田村響 日本にまたもタイトルをもたらす ロン=ティボー国際  ニュース

20日から争われていたロン=ティボー国際コンクールのピアノ部門は、日本の田村響の優勝で幕を閉じた。これにより、今年の主要コンクールでの日本人の優勝は4つ目となり、ちょっとした快挙といえそうだ。今年のジュリーは、A.チッコリーニ委員長をはじめ、J.C.ペネティエ、N.ペトロフ、海老彰子など、信用の置ける顔ぶれが揃った。2位には、若干17歳の韓国人、キム・ユンイー(もしくはジュンヒ)が入り、チッコリーニは、この2人のピアニストを特に評価しているようだ。以下、ロシアのソフィア・グリャク、韓国のキム・テヒョンと続いた。なお、事前に2冠も狙えるとした津田裕也だが、事前審査を通ったものの、本大会には参加していない。

田村は20歳。いまは亡き園田高弘に見出され、園田高弘賞コンクールの最年少優勝者となったのが5年前のことだが、その後、ピティナ・コンペティションの特級で優勝するなどの実績はあったが、なかなか上を突き破れなかったのも事実だ。私は、彼が江副育英会の奨学生に選ばれたときの披露コンサートで、2005年9月に演奏を耳にしているが、そのときは吹けば飛びそうな貧弱なパフォーマンスで、とても世界のトップに伍していくようなピアノは弾いていなかった。あれから2年、なにか大きな進境があったのであろうか。

今回のコンクールは、ピティナの報告によると、1次予選では審査委員の視野を遮るために衝立を用意し、演奏者名を伏せて演奏させるなど、厳正さにこだわりを見せたコンクールであった。今年は、ツール・ド・フランスなどで、痛い目にあっているフランス人ならではの工夫である。2次では、規模の大きなソナタなどを含む独奏リサイタル方式の審査。フランス音楽とドイツ音楽を組み合わせた課題だったらしい。ここで浜コン組のうち、期待のクレア・ファンチと日本のエース格だった前山仁美が脱落した。本選には6人が進出し、日本1、韓国2、フランス2、ロシア1という内訳となった。本選は2日に分けられ、初日はピアノ曲、2日目はコンチェルトという2本立てで、審査がおこなわれた。

ストリーミングなどの公開はないので、レヴェルはよくわからないが、浜コンでも高い評価を受けたコンテスタントたちを抑えて、田村・キム・グリャクらが上位を占めたことからみると、こちらも実力伯仲という内容だったことが窺われよう。日本人の入賞は多いコンクールだが、ピアノ部門の優勝は15年ぶりで、5人目。ヴァイオリン部門も入れると、2002年に山田晃子が優勝を飾って以来となり、優勝者は全部で8名である。過去10数年のピアノ部門からは、イム・ドンヒョクを筆頭に、ベルトラン・シャマユ、梯剛之などが輩出されている。
0

2007/10/23

東京交響楽団 力強い新シーズン・プログラムを発表  ニュース

東京交響楽団が、新シーズン(期首は4月に設定)のプログラムを発表した。サントリー定期、川崎定期、東京芸術劇場シリーズ(大友直人プロデュース)、東京オペラシティシリーズ、名曲全集という5本立ては変わらない。

【シューベルト シンフォニー・ツィクルス + α】

シーズンの目玉企画は、このページでも既報のとおり、今シーズンに演奏する「グレート」を除く、シューベルトの交響曲のツィクルス公演ということになる。5月に1番と4番「悲劇的」、9月に5番と6番、11月には2番と3番、そして、2009年3月の7番「未完成」でツィクルス完遂ということになるが、この日は、同じくシューベルトの劇付随音楽の傑作「キプロスの女王 ロザムンデ」が全曲演奏されるという大花火があがる。これらの曲目は、すべて音楽監督のユベール・スダーンが指揮する。

それだけではない。4月の開幕月には、もうひとつ残された幻の交響曲「第10番」の、ベリオによる「レンダリング」までが取り上げられる。このほか、今年のハイドンと同じように、各定演ごとに、各々の指揮者が選定したシューベルトの珍しい作品が演奏されることも付記しておきたい。なお、「ロザムンデ」を歌うメッツォ・ソプラノは、二期会の若手のホープ、谷口睦美であるが、12月には新国の「カルメン」のビギナー向け公演で出演が決まっている。コンヴィチュニー演出「ティート」のセスト役、先週の日フィルでの「三角帽子」のソリスト、それに新国初登場につづいての大舞台は注目である。当ページでは、過日おこなわれたミニ・コンサートの模様をリポートしてある。基本のしっかりした、良い歌手である。

【役付き4人の強固な指揮者体制は相変わらず】

さて、来シーズンも、スダーン、大友、飯森、秋山の4人が役割を分担して、要所に配置される体制は変わらない。スダーンは、シューベルトにほぼかかりきりといっても過言ではないが、アラベラ・美歩・シュタインバッハーを迎えてのベルクの協奏曲も見逃せない。そして、シーズン・ラストにはブル7が置かれている。大友は現代もののオペラで、アダムズ「フライング・ツリー」の日本初演を担うことになった。言わずと知れた、ミニマルの雄である。芸劇シリーズは多彩な内容で、大友得意の英国音楽では、エルガーの交響曲第2番と「威風堂々」への拘りが面白い。11月の同シリーズでは、もはや余技とはいえない十亀正司のバグパイプを使い、ボストン・ポップスのために書かれた曲を演奏する。この日は、1950年代に東響から委嘱された歴史的な名曲、黛敏郎の「饗宴」が演奏されることもあり、大きな注目が寄せられよう。

飯森の登場は、3プログラム、4回である。彼のミッションでもっとも重たいものは、マーラーの難曲、交響曲第7番であろう。名曲全集では、交響曲第6番「悲劇的」も担当し、マーラー係という感じになっている。飯森は彼のキャリアにふさわしく、もう1プログラムもブラームスのシンフォニーがメインである。リスト「死の舞踏」のオケ+ピアノ版では、日本屈指のヴィルトゥオーゾ・ピアニストである岡田博美と共演する。秋山は、紀尾井シンフォニエッタへの客演でもお馴染みの、コーリャ・ブラッハーと共演する1月のサントリー定期が見もの。シェーンベルクの協奏曲とは恐れ入った。メインも、デュティユーの交響曲第1番と、相変わらず威勢がいい。ナージャ登場(ブルッフの協奏曲)への期待が大きい、2009年2月のオペラシティシリーズも注目される。

【近年、好評を得た指揮者2人が再登場】

近年の客演で好評を得た指揮者では、今シーズンは、ラモン・ガンバが期待どおりの相性の良さを印象づけたが、来シーズンは、ミッコ・フランクと、ドミトリー・キタエンコの2人が、再び東響の指揮台に立つ。キタエンコは、ショスタコーヴィチの交響曲第7番での演奏が、ファンの間での語りぐさになっているが、今回は、前回客演時に残していった本人の希望ということで、チャイコフスキーがメインになっているが、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番も、勢いのあるヨハネス・モーザーの独奏を得て楽しみである。フランクはヨーロッパの劇場でも本格的にブレイクしつつあるが、前回のシベリウスのヴァイオリン協奏曲や、「火の鳥」の素晴らしい仕事を憶えていてくれたようだ。前回のスクリデにつづいて、またも若いヴァイオリニスト(山田晃子)を迎え、プロコフィエフの協奏曲を指揮するほか、メインでは、再びストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」が組まれている。鍵を握るピアノ独奏部に、各地のコンクールなどでも活躍する、若手の菊地裕介が迎えられるのがポイント。

【その他の指揮者たち】

一方、ニューカマーは少なく、女性の進出が進むオペラ界にも地歩を築きつつある、シャン・ジャンが呼ばれているほかは、お馴染みの国内で活躍する指揮者たちが並ぶ。広上淳一、飯守泰次郎、金聖響、井上道義、小泉和裕の5人であるが、これら邦人の指揮者たちは、金を除いて、4人が名曲全集での登場となる。井上は、話題の神尾真由子と組んでのベートーベンの協奏曲と、同じ作曲家の第7番を取り上げるスペシャル・プログラムで注目される。

【ソリスト】

ソリストは若手中心で、ややパンチ力に欠けるかもしれない。ベテランでは、ヴァイオリンのウート・ウーギと前出のナージャ、それにブラッハー、ピアノのイダ・ヘンデル、リーリャ・ジルベルシュタインといったところが要所を固めている。すこし渋めのソリストたちといえる。中堅は、前出のモーザー(vc)に加え、フセイン・セルメット(p)、ピーター・ウィスペルウェイ(vc)、アンドレア・グリミネッリ(cl)など。若手では、ニコライ・ルガンスキー(p)、ジャンルカ・カシオーリ(p)などが登場する。

【注目の2人のソリスト】

注目は、2人としておきたい。まずは、6月のオペラシティシリーズでアレンスキーの協奏曲を弾く、ピアニストのセルゲイ・クドリャコフである。彼は、その珍しい曲を弾くにふさわしいスペシャリストだ。彼は、昨年のアレンスキー没後100年のメモリアルで来日し、篠崎史紀、清水醍輝、佐々木亮、木越洋とともに、ピアノ・トリオやピアノ・クインテットなどを演奏したが、独奏の小品の演奏も素晴らしく、力強い支持の声が主催の「あ佳音」に寄せられたという。彼の手もとは、正しくピアノを弾くためだけに使われるような、美しいブリッジを形作る。こういうピアニストは、演奏自体は意外と良くないことも多いのだが、クドリャコフの場合は例外だった。同じ年、ゲザ・アンダ国際ピアノ・コンクール(プルーデルマッハー、キルシュネライト、ジグフリードソン、クズネツォフらを輩出)に優勝した彼である。

もうひとりはよく知っているわけではないが、10月の同じくオペラシティシリーズに登場のヴァイオリニスト、アウグスティン・ハーデリッヒということになる。1984年、イタリー生まれのフレッシュなヴァイオリン弾きは、7歳からステージに立ち、神童扱いされていたが、「15歳で火事により医者も見放すほどの全身火傷を負」ったのだという。2006年のインディアナポリスのコンクールで、国内マネージメントのアスペン社によれば、「圧倒的な実力を見せつけて優勝した」という。シーズン・プログラムではさらに、「20回を越える手術とリハビリを不屈の精神で乗り越え見事カムバックした奇跡のヴァイオリニスト」とアジテートしている。テクニカルなパガニーニの協奏曲がプログラミングされているのが見逃せない。

【まとめ】

読売日響やN響のように超一流の指揮者がバンバン呼べるわけでもなく、華やかなソリストが次々に登場するわけでもないが、なかなか歯ごたえのあるプログラミングと、細かい人選で、やりたいことがよくわかるシーズン・プログラムは定評どおり。来年も、この楽団との縁は切れそうもない。
0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ