2007/8/15

今度はコバケン! 大晦日、ベートーベン全交響曲連続演奏会  ニュース

大晦日に恒例となっているベートーベンの全交響曲連続演奏会の指揮者が、小林研一郎の一人に任されることが、主宰の三枝事務所より発表となった。

この催しは、2003年に3人の指揮者と2つのオーケストラにより、大晦日にベートーベンの交響曲をすべて連続で演奏するという試みとして始まった。その後、2年間は岩城宏之が単独で指揮して大きな反響を呼んだが、惜しくも氏が故人となられたため、昨年はその追悼の意味も込めて、9人の指揮者がバトンを受け渡してのコンサートとなった。既に今年の継続だけは発表されていたが、指揮者等は決まっていなかった。

今回、「同コンサートのファンから、小林研一郎を切望する声が多数寄せられ」たことを理由に、コバケンの起用が決められたようだ。昨年は、年齢順に並べただけにもかかわらず、奇しくも誰もが期待する7番を演奏することとなり、ひとつのハイライトを築いた小林である。三枝との関係も深く、日フィルの任期も切れたところなので、正しく時宜を得たチャレンジとなる。

まだ、公演の会場や時程、オーケストラなどの詳細は発表されていないが、パートナーは、N響メンバーなどを中心とする臨時編成の「イワキオーケストラ」が母体となるであろうことは想像に難くない。N響vs小林は、2004年に久しぶりに実現し、内外から好評だったと聞く。篠崎さんをはじめとするオーケストラも、彼のことは認めているだろう。

問題は、この指揮者、最後までもつのかということである。岩城さんも生前、若いころなら(ガス欠で)途中でぶっ倒れただろうということを言っていた。コバケンの場合、手を抜くなんていうことはあり得ない。私は彼の音楽に対する姿勢は評価するが、演奏自体はさほど好きでない面もある。しかし、こうした試みでどういう底力が出てくるのか、興味深々たるところだ。
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2007/8/12

イタリア声楽コンコルソ 本選会 8/11  演奏会

イタリア声楽コンコルソの本選会を聴いてきた。今回は、ボローニャ音楽院学長のカルミーネ・カッリージと、カーティア・ロローヴァが、特別招聘審査員として招かれた。また、審査委員長には中川牧三氏が当たるはずだったが、高齢のため、当日のうだるような暑さを心配して、この場には来られなかったとの次第である。

さて、同コンコルソは1980年9月1日以降出生者を対象としたミラノ部門と、1971年9月1日以降出生者を対象としたシエナ部門に分かれる。今回はミラノ部門はやや低調、シエナ部門は実力伯仲で混戦という展開であった。

ミラノ部門では、本選進出の7人のうち、4人に注目した。1番の松下美奈子さんは1983年生まれ、大阪音大出身のソプラノ。「ボエーム」の名アリア<私の名前はミミ>を軽やかに歌って、オープニングを彩った。クリアな発声でミミの魅力を確かに感じさせたが、ベッリーニのアリアでは、曲の難しさを克服できなかった。私の評価では4番手の大穴。やはり、受賞はなし。

4番の上田純子は1981年生まれ、国立音大卒のソプラノ。ヴェルディの「海賊」のアリア<彼はまだ戻ってこない!>と、同じくヴェルディの「群盗」のアリア<私は恥ずべき祝宴から逃れて>を歌い、同じ作曲家ながら、表現力ゆたかに2つのキャラクターを演じ分けた上、確かな技巧を下地にしたドラマティックな歌唱を印象づけた。ただし、同じ作曲家の作品を歌うということは、選考からみればやや不利ではないかと思われたものの、結果からみればソプラノ大賞を授けられた。私の評価では、部門で2番手だった。

6番の岸七美子が、私はもっとも気に入った。1981年生まれ、藝大卒のソプラノ。モーツァルト「コジ」のアリア<岩のように揺るがずに>の歌唱は、安定した基礎に基づいた品のいい歌いぶりで、ちかく二期会でうたった歌手よりも、私はいいと思った。ヴェリズモの歌唱は、現在の持ち味からは遠すぎる選曲だが、思いきった歌唱で悪くはなかった。発声がやや潰れている点が難点であり、好き嫌いのする声かもしれない。私の評価は1番だが、結果としては受賞なし。

7番の芹澤佳通は、ミラノ部門で本選に残った唯一の男声。国立音大出身のテノール。彼が優勝した。ヴェルディ「ルイザ・ミラー」のアリア<穏やかな夜に>と、ドニゼッティ「ルチア」のアリア<わが祖国の墓よ>で、衒いのない、真っすぐな歌唱を聴かせたのが評価されたものとみる。私の評価では3番目。唯一の男声というアドヴァンテージもあった。肉厚な歌声だが、いまのところ基本も甘く、遊びがない。イタリアでじっくり学んでも、ちょっと厳しいのではと見る。大化けに期待したい。

このほか、2番の竹下みず穂が、先行きを期待されるコンテスタントに贈られるイタリア大使杯を受賞。私としては、まったくのノーマーク。ファルセットの使い方がうまいものの、それに頼りすぎた歌唱で、良い歌手に変わっていくためには、基本からやりなおしていく必要がある。

シエナは、高レヴェルで拮抗した有力な歌い手が揃ったが、特に、男声陣の充実が目立った。8番の鐘皓(ゾン・ハオ)が優勝したが、男声5人はどれも魅力的。女声は15番の平川千志保、17番の田邊清美というところが気に入った。受賞こそならなかったが、田邊の歌唱は基本に忠実なすっきりした発声ながら、堅苦しくならず、技巧的にもっとも充実していたことは明白だったが、やや折衷的という感じもする。特に、「トロヴァトーレ」での歌唱は魅力的ではあるものの、自分の声との対話という点では、やや違和感もあった。京都市立芸大といえば谷村由美子と同門だが、同じように清楚な声のソプラノだった。イタリアよりは、ドイツで学んだほうがいいのかもしれない。

受賞者は、どこか新しいイメージを切り開いていく可能性のある人たちが選ばれている。優勝の鐘皓や、金賞の藤原海考は、過去の歌手たちのイメージに捉われることなく、素直に、自分の声をつくっていることが評価された。特に、鐘皓の「セヴィリアの理髪師」のアリア<陰口はそよ風のように>など、この前に来日したスポレート歌劇場の歌い手よりも、ずっと軽やかで、説得力のある演唱だった。受賞後の再演奏では「シモン・ボッカネグラ」のほうを歌い、本人としては正統派を狙う感じだが、ペーザロあたりに行くか、バロックあたりを学んで、ステップアップしていくほうが、彼には向いているような気もする。

ドニゼッティ「愛の妙薬」の名アリア<人知れぬ涙>を歌った2人のテノールの対比は面白かった。片や金賞の藤原、もうひとりは、10番の西岡慎介(こちらは受賞なし)。西岡はイメージとしては正統的な、すこし鼻にかかったネモリーノ声で、いろいろな録音をよく聴きこんで勉強しているのであろう。内向きで突き抜けていくものがないし、高音の伸びが抑えられてしまうが、全体としての歌唱は決して悪くなかった。ロッシーニ<ウィリアム・テル>のアリアも、あふれる叙情性をうまくコントロールして、我々に提示した。だが、藤原のネモリーノが、それを相対化してしまう。彼の発声は、ネモリーノというよりは、藤原自身。これまで聴いたことのないキャラクター像が浮かび上がっており、面白かった。

12番の加藤利幸は、テノール特賞に留まった。どういう順位になるかはともかく、どこかには入るだろうとは思われた。技術的な安定感がピカイチなのだが、そのよさが表現の高みに達するまでにロスがあるようで、歌唱は巧くても、なかなかそれを表現に結びつけられない。

15番の平川千志保は、ヴェルディ「リゴレット」のアリア<慕わしい方の名は>で、シャープな歌唱を聴かせて金賞を受けた。後半の細切れな部分が馬鹿っぽくなってしまうなど、思わぬところで雑になったのが響いたが、「ルチア」の<あたりは沈黙に閉ざされ>も活き活きと歌い上げていたし、持ち前の美声を存分にアピールできたとは思う。歌唱をコントロールする知性の部分で、さらなる研磨に期待したい。

そのほか、谷原めぐみが受賞したが、ノーマークだった。彼女の魅力や可能性は、素人の私にはわからない。全体的に、現時点での完成度というよりは、まだそこを割っていない人の可能性のほうに重きが置かれた選考という印象だ。

17人が歌いおわり、30分くらい巻きで進んでいたはずが、余興の過去の演奏者による演奏披露がおわっても、全然、結果が発表される素振りもなく、当初、結果発表予定の18:30も過ぎてしまう。結局、選考終了から1時間ちかくも経って、受賞者が発表された。これは多分、シエナ部門の実力伯仲による選考の難航によるものと思われる。このコンコルソは大賞が圧倒的に優遇されるため、僅かの差で特賞、金賞などに甘んじた人たちは、可哀想なことになるのだ。そんなこともあって、結果を聞いて、なんとなく釈然としない雰囲気の会場でもあった。

表彰式で、折角の招聘審査員のカルミネ・カッリージさんのお姿が見えないのも、どういうことなのだろうか。講評もなし。審査委員長は暑さで来ない。審査員のマルチェッラ・レアーレは、しきりに時間を気にしている・・・。いかにもイタリアらしいファジーさというべきか。今回、このコンコルソにはじめて来たが、いつも、こんな感じなのであろうか。どこか締まらない表彰式になってしまった。
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