2007/6/14

仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 第1次予選 C  クラシック・トピックス

あと2人みると、第1次予選の通過者を全部カヴァーできる。

まずは、ヴァーチェスラフ・グリャーズノフ(露)。この人は、現時点で完成度が高いピアニストと思われる。モーツァルトは決して得意とは思えず、特に緩徐楽章にはアラも目立つが、出しきっていない感じが、かえって可能性を大きく見せている。

ときに強引に割り込むような響きがあり、全体的にはやや退屈であっても、ときどき見せてくれる打鍵の輝きや、ゆったりした優美なパッセージは印象に残る。終楽章は速めの流れに乗りながら、伸びやかで粒立ちのいい響きで、鬼ごっこのように出たり入ったりするアクションが、アンサンブルによく調和しているのが目を惹いた。

エチュードは、これまでのコンテスタントのなかでも最右翼に位置する。響きがきれいにカーブしていくかのような op.10-4 は、音色も美しく透徹とした響き。前曲からアタッカで突っ込んだ op.25-6 は、後半で少しだけリズムが崩れた感もあるが、躍動的にパッセージを決めながら、豊富なイディオムをしっかり織り込んだ演奏で上出来だ。

最後は、日本の津田裕也の演奏。彼は、オケよりも少しずつ先をとっていくような演奏が特徴で、オスミニン同様、リズムの正確さにおいては比類ないものをもっている。そのせいもあってか、周りの音への癒着がなく、打鍵が清潔であるのはいい。彼の打鍵したところより、少しでも遅いとバックの響きに呑み込まれ、少しでも速いと、前のめりに聴こえてしまう。音量なども控えめではあるもの、適度な重みがある。

オスミニンとちがうのは、向こうが小節線まで見えるような演奏だとすれば、津田の場合は、小節線のないバロックの楽譜の上に、きれいに音符を置いていったような感じであることだ。コンチェルトは、第3楽章で特に魅力的であり、ポイント・トゥ・ポイントで旗門(=音符)をスラロームのように通り抜けて、精密な時計のような響きを刻んでいく。

エチュードは大きな感動を与える演奏ではないものの、ソツなく丁寧な演奏であり、これもまた彼らしい。まとめて聴いていくと、はじめは乗らないが、だんだんに惹きこまれていくのではないだろうか。

このラウンドでは、まだまだコンテスタントたちの真の実力は計りかねるところもあるが、一応、2次進出者のうちでランク付けしてみよう。

★★★★★(優勝候補) 該当なし

★★★★(決勝レヴェル) V.グリャズーノフ
                O.シェフチェンコ
                リー・カリーン・コリーン

★★★(有力者) I.オフチニコフ 
           S.ツィンツァバーゼ
           津田 裕也

★★(秘めたる可能性) シィ・ブライアン
               V.オスミニン

★(変身に期待) 島貫 愛
           E.ビリンガー
           ルー・イチェ
           長瀬 賢弘
1

2007/6/14

仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 第1次予選 B  クラシック・トピックス

私もプロのクリティックではないので、さすがに飽きてきた。セミは16日から始まるので、慌てることはない。ここからは、2次進出者を中心に聴いていくことにする。

まず、オクサナ・シェフチェンコ(露)。彼女の演奏を聴いていると、相手は弦楽クァルテットかもしれないが、やっぱり、コンチェルトをやっていたんだということに、再度気づかされる。牽引力のあるピアノで、音量の点でもそうだが、フォルムの堅固さが図抜けており、しかも、強引になっていない。

もうひとつ、1日目のモナッフがルバートをやっていたが、彼女もルバートをみせている。だが、少しばかりちがう点がある。それは、シェフチェンコの場合、ルバートの終わりで、しっかりバルヴを締めている点だ。

エチュードもしっかりした打鍵で、紛れのない表現になっている。最低限、これぐらいのレヴェルはほしいという演奏に、ようやくめぐり会えた想いがする。

次のエスター・ビリンガー(独)は、ガタガタした演奏で、モーツァルトでは響きの濁りが目立っている。よく練られた演奏で、一音一音まで丁寧に意味づけられている点はよしとしても、そのデザインを思いどおりに形にできているとは思えない。ただし、彼女もシェフチェンコ同様、ソリストとしての存在感には見るべきものがある。エチュードは細やかな演奏で、よく鍛えられたパーツの機能美が見事である。特に、op,10-9 には感心した。

グルジアのショレーナ・ツィンツァバーゼは、透きとおったシャープな音色が魅力的なピアニスト。ときどき必要以上に音が詰まる(切断される)難点はあるが、全体的に、美しくふくらみのある音は出色だ。コンチェルトのフィナーレは、独特のスコア・リーディングに基づいた生きた音色が特徴的であり、コロラのアリアのようなカンタービレが効いている。包容力のある演奏で、なるほどコンチェルトらしい。エチュードでは、op.10-7 を落ち着いたタッチで悠然と弾き上げているのが、地味だが驚嘆に値するように思った。

イリヤ・オフチニコフ(露)は、押し引きのバランスをよく心得たピアニストだ。前の女性二人からすると、やや控えめな表現にも思えるが、その分、振幅の広さに特長があり、モーツァルトがハイドンの影響を強く受けた作曲家であることを印象づけた、初めてのコンテスタントである。エチュードのなかでも、「革命」はこれまで多くのコンテスタントが選んできたが、彼の演奏がもっとも深みのある表現だった。モーツァルト同様、振幅の広さも同時に印象づけ、「蝶々」の軽快なユーモアとの比較も面白い。

今日は、ここまで。やはり、この日のコンテスタントたちがもっともレヴェルが高い。けれど、どうしても勝ってほしいというような人には、まだ出会っていない感じがする。
0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ