2007/5/22

エヴェリン・グレニー 世の中には理解できないことがある!  期待のコンサート

この週末(5/26)、ミューザ川崎で、エヴェリン・グレニーのコンサートがある。欧米ならば、もう売り切れていても不思議ではないのだが、@ぴあの残券状況は「◎」だ。主催はホールで、「アンサンブル2007」という一連のシリーズの第1回だが、あまり広報が上手くいっていないように見えるので、すこし残念に思う。

エヴェリン・グレニーは、世界中でもっとも有名なパーカッショニスト、しかも美人ときている。そして、驚くべきは、耳が聞こえないのだ。「8歳の頃より自らの聴覚に異常を覚え、聴覚障害を患って、12歳の誕生日を迎える頃にはほとんど耳が正常に機能しなくなった」という。

世の中には、我々の想像もつかないことがあるものだ。目が見えない状態で、あんなにも正確に打鍵できるピアニストである、わが国の梯さんや辻井さんも瞠目すべき存在だが、音楽家にとって、耳が聴こえないなどというハンデは、ほとんど致命的であると思う。まだ1人で何役もできる鍵盤ならわかるが、グレニーの楽器は、マリンバをはじめとするパーカッションだ。つまりは、周りとのコミュニケーションがもっとも重要な楽器であろう。その秘密に迫った彼女の映画もあるが、まず、グレニーがどんな演奏をするのか、実地に確かめてみたい。

私は、彼女の演奏を聴いたことがあるわけではないので、誰かに薦めるというような言い方は適切でない。だが、彼女は世界中でもっともエキサイティングな打楽器奏者であり、ラトルをはじめとする、多くの優れた音楽家に認められた世界のトップ・パーカッショニストであることは、疑うべくもない。特に英国では、なんとラトルやコリン・デイヴィスと同等である、”Dame”の勲位を受けている。

彼女のことを囲んで、2人の優れたピアニストが、グレニーとともに舞台に立つ。1人は、グレニーとは20年来のパートナーであるというフィリップ・スミス。もう1人は、このホールのアドヴァイザーでもあり、特に玄人筋からの評価が高い小川典子だ。小川は国内よりも、英国での評価が芳しく、グレニーとも親交があるという話である。

曲目が耳慣れない作曲家の現代ものが多いので、二の足を踏んでいるファンも多いのかもしれないが、相手がパーカッションだから、そう構える必要はないと思う。小川さんの委嘱を受けて、この日のために作曲した菅野由弘さんは、エレキを使った音楽がお得意なはずだが、今回の曲はどうだろうか?

グレニーは耳が聞こえないのだから、良い演奏を聴けたら、スタンディングで讃えることにしよう!

 曲目等の確認には、こちらのページがよくまとまっているかも・・・
 http://www.marimba.org/ja/modules/events/index.php?id=760
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2007/5/20

紀尾井シンフォニエッタ チュマチェンコ 5/19  演奏会

紀尾井シンフォニエッタ東京(KST)の第59回の定期公演に足を運びました。今回は、ヴァイオリンのアナ・チュマチェンコをゲストに迎えるのがポイント。指揮者には、ヴァイオリン奏者としては、彼女の弟子に当たるというヨーン・ストルゴード、さらには、KSTメンバーで、これまたチュマチェンコの弟子に当たる玉井菜摘さんが、アシスタント・コンマスの位置についていらっしゃいました。

そのチュマチェンコのメンコンが、素晴らしかったです。彼女はイタリアはパドヴァの生まれで、ジンバリストやハイフェッツらを世に送り出した歴史的な巨匠、レオポルド・アウアーの直弟子であった父親から手解きを受けたと言います。冒頭から、独特のアーティキュレーションで驚かせてくれますが、もちろん、それだけではありません。

いちばん大事な要素は、ヴァイオリニストが弾いているのではなく、ヴァイオリンそのものが歌っている、しかして、ヴァイオリニストはオルゴールのねじを巻くようにして、弓を操るということですね。こういう体験は、私にとっては初めてです。ふつうは、弓のアクションや右手の抑えにあわせて、響きにも動きが加わります。ところが、アナの場合、彼女がひととおりアクションを終えてから、ヴァイオリンが鳴るように感じられます。それゆえ、弓で響きを奏でるというよりは、アナが触ると、ヴァイオリンが歌いだすというような感覚を与えるのです。

これは多分、このヴァイオリニストが楽器のもつ可能性を、フルに引き出していることを意味します。弓のアクションから響きができるまでの、ほんの僅かな視覚的なズレは、響きが楽器のなかをどのように伝わっているかを教えます。

次に驚くべきことは、重音の美しさです。このメンデルスゾーンの協奏曲は、重音の弾き方で、ほとんど楽曲が変わってしまうといっても、過言ではありません。メンコンでは、重音に魂をのせていくような表現が多用されており、ここにこぶしを効かせることで、ぐっと聴衆を惹きつけるような演奏が少なくありません。ソウルフルにぶるっと響きを振るわせれば、表現としても厚みが出るし、なにより技巧的にも安易になります。

しかし、アナの演奏を聴くと、そうした常識は通用しません。なるほど、重音は精確にやれば、美しく響くのです。彼女の重音は、しっかり楽譜の五線にのっています。そして、それぞれの響きが、正しくひとつの音符として力を持ち、適切な長さで響いている。

それゆえ、チュマチェンコの演奏は、とても上品な響きがします。ただし、はじめに書いたように、彼女はイタリア人です。明るく弾けるような響き、そして、ラテン系の熱い演奏は、DNAに刻まれています。彼女が何歳になるのかは存じませんが、相当の年輪を重ねていることは間違いありません。ところが、例えば第1楽章の最後や、終楽章の大詰めでみせた激しいアジテーションは、コンクールに出るような若者の気迫と変わりありません(もちろん、表現力は雲泥の差)。

彼女のヴァイオリンは、非常に高度な技術力に支えられてはいますが、こうした表現への奥深い執念のようなものが、ぱっと表に出るのです。この前のシュミードル同様、多少はみでるようなところがあっても、独特の味がある、アナのヴァイオリン。どんな断面で区切っても、いつも一杯の果汁を中身に詰め込んでおり、それを客席に届けたいという情熱に満ちあふれているようでした。

KSTのみなさんには申し訳ないですが、ほとんどバックは耳に入らなかった。よくまとまったという以上の演奏で、例の第1楽章のおわりとか、独奏や指揮者に煽られすぎて、ちょっと危なっかしくなる場面もありながら、全体としてはエネルギッシュに肉迫した演奏だったのではないかと思います。

指揮者のストルゴードは、名指揮者たちを輩出するフィンランド、シベリウス・アカデミーのパヌラ&クラスの門下生のひとり。ただし、タイプとしてはトーマス・ダウスゴーを思わせます。ノン・ヴィブラートには拘りませんが、無駄な響きは刈り込んで響きをぐいっと束ね、ホットな響きを構築するので、むしろ、ヴァイオリンの師であるチュマチェンコのほうの影響が強いのかもしれません。オーケストラのメンバーを、その気にさせる能力は高いようです。

その代わり、我々がフィンランド系の指揮者に期待する弱音の美はなかったので、拍子抜けの聴衆がいたかもしれません。ppのない演奏会だったという点では、大味という評価が立つのではという懸念も。シューマンの「序曲、スケルッツォと終曲」は、その芸風がはまり、非常に爽快なシューマンで、私好みではあります。

シベリウスの3番では、作曲者が後期交響曲で、はっきり露になるシンプリシティへの指向を示した作品で、その点、さらに磨き抜かれた繊細さが必要とも思います。もっとも気になったのは、全体を弱奏に落として木管を押し出すようなときに、そのパートに鋭すぎる響きを要求するために、すこし粗めに聴こえる部分があることです。

ただの大味な指揮者でないのは、シベリウスになったときに、前半のドイツものとは、明らかにちがう色彩感が浮かび上がったことです。第2楽章は木管のアンサンブルがとてもきれいだっただけに、さらに上を目指せた感じのする部分でした。

第3楽章の最後の繰り返しの音型が聴きもので、ゆらっゆらっとスイングする河原さん(cb)の動きが何かの合図のように、ゆったりと響きが収まっていくのに気づいてハッとしたけれども、ここではオーケストラ全体がまるでひとつの楽器のようになって、内省的な美しさがありました。内側にエネルギーが貯まっているのが分かるのですが、それは血液のように、オーケストラの「体内」で脈を打ち、決して外には解放されない。この日の演奏では、唯一、はっきり「p」と感じられる部分が、ここでやってくるのには痺れました。そのムードにうっとりとなり、最後の音が切れてから、ストルゴードの腕が下りるまで続いた静寂がよかったですね。

ただ、チュマチェンコのメンコンのあとだけに、私にとっては、すこし長いアンコールのようなものでした。すごい人が来てくれたものですよ。来週はウィーク・デイながら、ソロと室内楽を組み合わせた演奏会があるそうです。

明日は、大津で・・・
 http://www.gaido.jp/machikado/machikado.php?ID=1560

あさっては、築地で・・・
 http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/event/detail.asp?id=887&month=5


【プログラム】 5月19日 15:00-
1、シューマン 序曲、スケルッツォと終曲
2、メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 op.64
 (vn:アナ・チュマチェンコ)
3、シベリウス 交響曲第3番

 コンサート・マスター:澤 和樹

 於:紀尾井ホール
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