2007/5/30

仙台国際 セミ・ファイナルから  クラシック・トピックス

コンクールの模様を、もうすこし聴いてみることにした。既に結果はわかっているので、ファイナル進出者の値踏みが、当面の目的となる。

まず、千葉清加。彼女は、日本音コンで3位に入賞したとき(鍵富弦太郎の優勝、大岡仁が第2位)に、生で聴いたことがあるが、随分と成長が見られた。コンクール前後から、編成の小さなアンサンブルや室内楽で名前を見かけていたが、あれから藝大を卒業し、大フィルの若きコンマス、長原さんと結婚したりもして、(演奏の)内面の充実が顕著である。

音コンのときには、冒頭だけであとが続かなかったが、この人があのときの彼女なのだろうかと疑いたくなるほど。音色もずっと豊富に、幅広いダイナミズムを自在に使えるようになり、技術的な安定感にも磨きがかかった。このラウンドはプロコフィエフを弾くコンテスタントが多かったが、特に第2楽章以降は表情の変化が柔らかく、響きによる表現力の豊かさが図抜けている。終楽章おわりの、ユーモラスな重音の使い方に、プロコフィエフの諧謔をうまく浮かび上がらせている。良い演奏。藝大の出身ならば珍しくもないが、この人もプーレと岡山さんの弟子。

エリン・キーフはバルトークを選んだが、27日のバーエワほどの隙のないパフォーマンスではないものの、どっしりした重心の低さが特徴的だ。慌てず騒がず、しっかりスコアに忠実な響きを形にしている感じがする。既にベテランのような、落ち着いたパフォーマンスが逆に魅力的で、こういう人がいるというのも、コンクールの面白いところだ。

特殊技法、ぶら下がった表現など、かなりの巧者ぶりをみせる。現代音楽も得意のタイプだろうが、このバルトークにもよく合っている。淡彩な感じのする表現にはやや難もあるが、そういうことを含めて、丸ごと呑み込まれるような包容力のある演奏が特徴的だろう。

本選での出来もあるから、セミの印象だけで決めつけるわけにはいかないが、これまでの感想から順位を予想してみた。

 1位 アリョーナ・バーエワ 
 2位 千葉 清加
 3位 なし
 4位 エリン・キーフ
    長尾 春花
    アンドレイ・バラーノフ
 7位  シン・アラー
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2007/5/28

第3回仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 高いレヴェルでの表現力の争い  クラシック・トピックス

5月26日から、仙台国際音楽コンクール(ヴァイオリン部門)のセミ・ファイナルが争われている。浜コン同様(生放送は見られないようだが)、ストリーミングで演奏の模様を視聴することができる。

このコンクールは、最初の予選からコンチェルトによるコンペティションが行われ、即戦力が発掘されることで有名になった。今回は、第3回の開催となる。ヴァイオリン部門の過去の入賞者は、パガニーニ・コンクールを制したホァン・モンラや、現在、フランス国立放送フィルのソロ・コンマスの地位にあるスヴェトリン・ルセヴ、N響奏者として、また室内楽の分野でも活躍する大宮臨太郎、エリーザベト王妃コンでも入賞し、ソリストとして注目されつつある松山冴花など、過去2回の歴史にして、驚くほど多くの、優秀な人材を世の中に送り出した。

セミ・ファイナルは、予選でのクァルテットとの演奏にかわって、いよいよ仙台フィルのフルオケをバックにしての選考となる。曲目は、プロコフィエフ(2番)、ストラヴィンスキー、バルトーク(2番)、ベルクから選ぶ。予選出場の40人以上のコンテスタントから絞り込まれた12人が、このラウンドで演奏する。

前置きが長くなってしまったが、聴く人聴く人が、なんと上手なことかと驚いている。まだセミだというのに、ほとんどのコンテスタントが上位進出の可能性を秘めた優れた才能を示しているのだ。ストリーミングだからわからないが、インターネット配信で聴くかぎりは、どの奏者もよく響かせていて、ほとんど弾き損ないもなく、水準以上の表現力のある演奏ができている。

比べるべきではないかもしれないが、日本音コンでは、ファイナルでさえ、これほどのコンテスタントたちには、なかなかお目にかかれないだろう。技術的に優れていても表現が薄っぺらいコンテスタントや、逆に、表現の面で光るものがある人は、技術的に甘いところが多すぎるということが多いのだ。

最初に、26日に演奏した長尾春花の演奏を聴いてみた。曲目は、難曲の(このラウンドの曲目は、どれも難曲だ)バルトークであるが、この作曲家らしいイディオムをしっかり拾いながら、小さくなることなく大きな表現を貫き、技巧的にもしっかりしている。調べてみると、彼女は既に、ユース・コンでは相当の実績があり、わが国を代表するヴァイオリン教師の江藤俊哉のもとで習い、いまは青木高志、岡山潔、ジェラール・プーレに師事するというサラブレッドではないか(プーレも岡山も副審査委員長なんですけど・・・)。まだ18歳というのに、なんという完成度!

これなら巧いのも当然と思いながら、韓国、中国、アメリカ(アジア系)と順に聴いていくが、どうしてどうして、ハズレがないのだ。中では、韓国のシン・アラーだけが、ややプロコフィエフの難曲中の難曲を持てあます部分もあったが、中国のワン・ジュジオン、アメリカのハナー・チョイと、ほとんど技巧的には互角だろう。シンも上手でないというのではなく、音色の面白さなどには、他のコンテスタントにない良さがある。

こうなると、技術的な上手い/下手というよりは、楽曲に対する表現力の問題となり、より高い次元の争いとなるほかない。もう結果は出たはずだが、審査は難航をきわめたのではなかろうか。目下、ストリーミングは27日分まで公開されている。この日の演奏は、アンドレイ・バラーノフを聴きおわり、アリョーナ・バーエワの演奏中だが、やはり、いずれも質のいいヴァイオリニストであることに変わりはない。

特に、いまバックで流しているバーエワの演奏は、洗練された美音ながら濃厚な表現力があり、なんとも魅力的だ。弱奏の艶やかな表現力など、これまで聴いた人のなかでは図抜けた存在に思われるが、難点もある。これはバルトークの演奏で、そのイディオムは確かに押さえているのだが、どうしても響きがゴージャスでロシア化して聴こえるのだ。しかし、40分の長大な曲を、高い集中力で弾きあげたのは凄い。この人が、どのように扱われるかには、是非とも注目してみたい。

総じて、27日のほうが、響きに深みのある奏者が出てくる。次の清永あやは、日本音コンで2位などの実績あり。曲目は、プロコフィエフを選択した。これは、先刻のバラーノフと同じだが、前半、激しく音楽が動くときの変わり目ごとに、少し強引になった彼と比べると、清永のほうが表現に柔らかさがある。

ただし、その後の展開はスムーズさを欠き、粗い部分も目立つ。響きに膨らみがあり、スケールの大きさは感じられるものの、少し硬くなっているのかもしれない。緩徐楽章に入っても、すこし厳しすぎる演奏だ。終楽章は堂々とした演奏で、隙がなくなった。持ち前のスケール感が悠々と響いていたし、この楽章に来て、ようやく彼女らしい演奏ができた。個人的には、彼女の演奏は好きなのだが、急速パッセージに安定感がないし、どうかなあ・・・。

ここで、課題曲について分析してみると、次のような傾向がある。まず、ベルクを選ぶコンテスタントは、ここまで一人もいない。

もっとも長大な曲はバルトークで、40分を退屈させることなくもたせる表現力のパレットの豊かさ、そして、その間、高い集中力を維持し続けるスタミナが勝負になるだろう。バルトークは難技巧も多いが、特に弱音で繊細な音を保つようなアクションがポイントになる。また、バルトークらしい野性味を、どのようなスタイルで表現していくかが鍵となろう。

ストラヴィンスキーを演奏する場合は、ユーモアが大事だ。曲自体はロマンティックなので、若い奏者としても共感がしやすい。だが、その分、自分らしい演奏というものをアピールしていくのは簡単ではないかもしれない。オーケストラの響きの面白さをよく聴いて、それにあわせたユーモアを、内側から発散していくような演奏が望ましい。

プロコフィエフは、もっとも難曲だと思う。表現の掴みどころが難しく、その演奏者の個性がよく表れる点では、もっともチャレンジングだ。長さはそれなりであるから、表現の方向性をまとめ、それがよく練られたものと感じさせる必要があるし、技巧的にも高いレヴェルで安定していないと、不安げに聴こえてしまう。

この日、最後の川又明日香も、同じプロコフィエフを選んだ。この方は、名前ぐらいは聞き知っている。ブロンの講習にも出たことがあるそうだが、現在の先生は原田幸一郎と友永優子。前回のコンクールで、審査員特別賞を受賞している。

川又の演奏は派手さはないが、よくまとまっている。第一音はものがちがうという感じだったが、その印象は、だんだん薄れていった。緩徐楽章は、清永と比べるとリラックスしているが、バラーノフほどの深みはない。からっとした演奏で、あとを引かない。原田の弟子だけあって、自分がどうこうというよりは、よく聴いて、室内楽的に丁寧にあわせていくのが長所だが、ソリストとしてのスケール感はなく、やや小ぶりな表現に止まる。課題曲がモーツァルトならよかったのに!

終楽章も傾向は同じで、全体を引っ張るソリストがいるというよりは、弦楽クァルテットに加わった、ゲスト奏者いう感じが強い。川又の取捨は難しいかもしれないが、こういうタイプは珍しいので残してもらいたいが・・・。

さて、予想ゲームをしているわけではないので、今日の放送はまだ公開されていないが、結果を見てみよう。本選には6人が拾われ、長尾、シン・アラー、バラーノフ、バーエワに加え、28日に弾いたコンテスタントから、千葉清加とエリン・キーフ(米)がファイナリストとなった。誰が優勝しようとも、レヴェルの高さは既に証明されている。

本選は、6月1日と2日。曲目が、チャイコフスキーばっかり!
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